クローン人間の僕と人間の彼女

その場で署名活動を始め、道行く人に声を掛ける。


「すみません、署名をお願いしたいんですけど」

「何の署名?」

「谷本工場でクローンが酷い目に…」


言い掛けた時に言われた。


「働けるだけで充分でしょ。バカな事してないで貴方も働きなさい」


俺は呆然とした…。
俺の周りがどんどん変わって、現実の世界から離れた場所に居ただけで、世の中は何も変わっていないと、思い知らされた…。


「健治、何やってるんだよ?」


振り返ると朋と功太が笑っていた。


「署名を集めようと思って…」

「ノートとペンだけじゃ、無理だよ。まずは現状を知って貰わないと…」


「とりあえず、一回帰って作戦を考えようぜ?手伝うからさ」


翌日、谷本から来た社員にケガの写真を撮らせて貰い、俺達三人は余っている時間を全部、署名活動に使った。

功太と朋は仕事があって、殆どの時間は俺一人だった。

俺はいつも同じ場所に行き、署名活動を続ける。

始めは鬱陶しそうにしていた人達も立ち止まり、話を聞いてくれる人や、自分の息子も同じだと涙する人も居る。

中には差し入れだと、毎日おにぎりを持って来てくれるお婆ちゃんも居た。

生きていたら、お袋と同じくらいの年のお婆ちゃんだ。


「お婆ちゃん、いつもありがとう。俺、明日から入院なんだ」

「そうかい…。じゃあおにぎりは要らないね…」


お婆ちゃんは凄く寂しそうな顔をした。


「一ケ月したら、又ここに来るからおにぎり持って来てよ」