「しかし、あれだな。やっと健治も一人前だ。ゴホッ」
「あなた、最近咳が多いわ。一回病院で診て貰いましょ?」
「祝いの席だ。余計な事を言うんじゃない!」
「俺は大丈夫だから、病院に行けよ」
俺がそう言うと親父は少し黙ってから言う。
「…そうだな。お前が病気になる前に逝ってしまったんじゃあ、どうしようもない親だよな」
「あぁ。俺もちゃんと立ち向かうから、まずは自分の身体を大事にしてくれよな」
「あぁ、明日にでも病院に行くよ」
「あらあら、けんちゃんには素直なのね」
その日の家族の食卓は、笑いが絶えなかった。
俺の就職は、家族の喜びでもある。
「行って来ます」
翌日、親父とお袋に見送られ、スーツを身に纏い、俺は会社へと向かう。
途中で功太を車に乗せ、家から20分離れた谷本工場に着いた。
「いよいよだな…」
「あぁ、頑張ろうぜ!」
車を降り、建物の中に入ると、仕事前の従業員達がニヤニヤしながら、俺達を見る。
こいつらは一体何なんだ?
「あぁ、君が森本君?」
ニヤニヤしていた奴らの中の一人が、俺に声を掛けた。
「はい」
「今岡です。君達の指導は、俺が担当だから」
「宜しくお願いします!」
俺と功太は深々と頭を下げる。


