クローン人間の僕と人間の彼女

「嫌な事を聞くなぁ。見ての通りだよ」


店の中を見回すと、ガランとしていた。


「あっ、悪い…」

「いいんだよ。ちゃんとお客さんんが居るしね」

「……あっ、俺か」

「又、何かあった?」

「……仕事が見付からないんだ」

「あー、仕事かぁ。クローンだとなかなか雇って貰えないでしょ?」

「はっきり言うなぁ…」


俺はマスターのこういう所が好きだ。


「どうしてもって言うんだったら、谷本工場の社長に聞いてみるけど…」

「谷本工場?マスター、知ってんの?!」

「知ってるけど、クローンの奴らには、評判悪いよ?」

「いいよ。マスター、聞いてみてくれよ」


俺はマスターの言う


”評判”


なんか気にしなかった。

雇って貰えない惨めさに比べれば、全然いい。


「…分かったよ。じゃあ、明日の昼にでも聞いとくから、明日の夜、ここにおいで」


俺は暗いトンネルの中に、たった一つの光を見付けた…

そんな気分になった。


「じゃあ俺、今日は帰るよ。明日、功太を連れて来るからさ」

「あぁ。待ってるよ」


帰り道の俺は、この店に来る時の重い足取りとは違い、軽快に進む。