「あたしは、紫絃になりすましてたんです」

それぞれ着替えを済ませ落ち着いた頃、リビングに集まり1番に口を開いたのは千佳ちゃんだった。

「ずっと後悔してた。紫絃を助けられなかったこと。そのせいで弟の七絃くんやおばさんにまですごく辛い思い、させちゃいました」

暗い声で話す千佳ちゃん。僕はまだ全てを思い出せず、途切れ途切れの記憶がぐるぐるした頭で千佳ちゃんの話に耳を傾けていた。母も静かに聞いていた。

紫絃が虐められていたことに、親友のはずのあたしが気がつけなかった。いつも笑顔で5つ下の弟のことが大好きで「なつくんはね」が口癖の、元気でかわいい女の子。勉強も運動もできて優等生だった。そんな彼女が芝崎公園の池に飛び降りて自殺した。中三の4月1日、その日は大雨だった。そのせいで弟の七絃くんは不登校になっていることを知って、あたしが何とかしないとって思ったの。それで毎年4月1日あの場所で紫絃のお気に入りの白いワンピース、青いリボンで七絃くんのことを待ってた。やっと会えたけど七絃くんは、紫絃のこと覚えてなかった。紫絃のこと思い出せば、不登校になったきっかけを思い出せば、また生きる活力が湧いてくれるかもしれない。そう思い紫絃になりすまして、毎日あの公園で七絃くんと会ってた。少し考えればわかることなのに、紫絃を思い出す時七絃くんに辛い思いさせちゃうってね。でも、紫絃のことしか考えてなかった。