「月子ー!俺の分のノートもついでに出しといて。」

高階蒼空(たかしなそら)は そう言って椎名月子(しいなつきこ)にノートを放り投げた。

「ちょっと!投げないでよね。」
そう言いつつ月子はノートをキャッチする。

「部活行くのに急いでるんだよ。悪いなー。」

蒼空はごめんと謝りながらも 部活に行くために机の上を片付けていた。

「遅いな。先行くぞ。」

蒼空に声をかける男子は、幸田太陽(こうだたいよう)。蒼空と同じく陸上部だ。

「待てよー太陽。」

蒼空は慌てて太陽を追いかける。

そんな情景を月子は微笑ましく眺めていた。

高校二年生の放課後のクラスは みんなめいめい忙しそうだった。

月子は教室で、しばらく友達の安藤未奈(あんどうみな)と話していたが、課題の提出物であるノートを職員室に持っていくために 一旦 未奈とのおしゃべりは中断した。

蒼空の分も一緒にノートを持つ。

蒼空とは高校一年生の時から同じクラスで、何でも言い合える仲だった。

職員室を出て、廊下を歩きながらグラウンドを見ると 蒼空と太陽が陸上部の練習をしていた。

しばらく立ち止まってその風景を眺める。

長身の二人は 遠目でもすぐに分かるほど目立っていた。

そういえば 中学の時もこうやって練習風景を見ていたっけ……。

月子と蒼空は同じ中学だった。

月子は中学の時から蒼空をいつも眺めていた。

その当時は話したこともなく、蒼空は月子の存在も知ってなかっただろう。

風の噂で蒼空がこの高校を受験することを知り、月子も頑張って同じ高校を受験して見事合格した。
そして、ようやく『友達』として蒼空と近い関係になったのだ。

蒼空が月子に気付き、手を振る。
月子は 小さく手を振り返す。
おもわず笑顔になる。

こんなふうに関わりあえることが嬉しかった。

毎日 同じ教室で 蒼空の近くにいられることが幸せだった。

月子は教室で待っている未奈の元に急いだ。