その時、グイッともう片方の腕を引っ張られる。
 引っ張ったのは依蓮くんで、その勢いで依蓮くんの方に引き寄せられた。


「――それ、莉茉ちゃんのだよ」


 依蓮くんにしては珍しい、少し低めの声だった。


「だからなんだよ」

「欲しいなら俺のをあげるけど」

「お前のなんかいらねーよ」


 それからこの二人、もしかしてあんまり仲良くないのかな……?


「依蓮、莉茉の兄貴やってんだなぁ」

「……」

「でも忘れるなよ、お前は莉茉の“兄”なんだからな」


 何故か亜蘭くんは兄を強調するように言った。


「……亜蘭こそ、莉茉ちゃんの初恋は子どもの頃の話だよね」

「――、へぇ……お前が俺に言い返してくるとはな」

「……帰ろう、莉茉ちゃん」


 依蓮くんはわたしの腕をつかんだまま、スタスタと歩き出した。


「えっ、依蓮くん!」


 そのまま引っ張られていくわたしに向かって、亜蘭くんが呼びかけた。


「忘れんなよ、莉茉。お前はずっと俺のものなんだから」

「え……」


 今の、どういうこと……?

 亜蘭くんのことだ、またからかっているのはわかってる。
 わかってるけど、好きだった人にそんな風に言われたら――、


「〜〜……っっ」


 嫌でも意識しちゃうよ――。