「大好き? 大嫌いじゃなくて?」


常田は先程のひばりの口調を思い出しながら麻衣に尋ねた。あまりの衝撃にまさに開いた口が塞がらない。


「はい。テレビで特番やってたら大体見てるし、特に自衛隊が好きみたいで…。」
「えぇ…。装備とかかな。」


芹沢の方もかなりの衝撃だったようで、驚きを隠そうともせずに目を瞬かせて言った。


「いや、そっちはあんまり興味ない…っていうかよく分かんないみたいで…。」


常田と芹沢は顔を見合わせた。口には出さなかったが、互いに見合わせた顔の口端がむずむずしていた。先程まで全く見えなかった勝機が見えた。
そうでなくとも、装備抜きに自衛隊が好き。そんなことを聞いて喜ばない常田と芹沢ではなかった。そんな常田と芹沢に気付いてか、麻衣は優しく笑って言った。


「自衛官の皆さんがかっこいいって言ってました。」


2人はもう笑みを隠さなかった。褒められて嬉しくないわけがない。
日に焼け、泥に塗れ、汗に塗れ、むさ苦しくてイカつい男の集団だ。ミリタリー好きは銃火器ばかりの者も少なくない。ブルーインパルスのような花形でもない。そんな自分たちを見てくれている人がいる。なかなかそんな声を耳にすることもない中でのそれは純粋に励みになる。

しかし同時に、常田はやはりひばりの態度が不思議でならなかった。


「…そんな風に思ってくれてるのに、なんであそこまで拒絶されたんだ…?」


そこまで好きなら憧れないだろうか。話を聞いてみたいだとか、あわよくばお近付きになりたいだとか…。
そんな常田の疑問の答えに芹沢は既に気付いているようだった。芹沢が促すように麻衣視線を向けると、麻衣は気まずそうにしながらその答えを口にした。


「……いつ死ぬか、分からないから…。」


常田は思わず口に手を当てた。


「マジか。」


常田の口から思わず漏れた声はこれまた間抜けだった。芹沢はやっぱりかと頭を抱えた。芹沢は常田に比べて、自衛隊に入隊してから場数を多く踏んでいる分察していたようだ。抱えていた頭を上げると、芹沢は常田に向き直った。


「お前やっぱ希望ねぇんじゃ…」


そこまで言いかけて、芹沢はまた驚いた。というか、半分呆れた。


「……常田お前、ニヤケてんぞ。」
「え…。」


常田は少し顔を俯けたが、今度は耳が赤くなっているのが良く見えた。芹沢は溜め息を吐くと、気まずい雰囲気を引きずったままの麻衣を安心させるように笑いかけた。麻衣も理解しきれていないものの、自分の発言で常田が傷付いたわけではないことだけは理解できた。

そして芹沢はこの後すぐに気付いたのだが、結果として芹沢と麻衣はこの時常田の人生の転機に立ち会っていた。


「いやだって、いつ死ぬか分かんないから関わりたくないって…、可愛すぎでしょ…。」


常田弘樹(つねだひろき)、25歳。
陥落の瞬間であった。