身代わり婚だったのに、極甘愛で満たされました~虐げられた私が冷徹御曹司の花嫁になるまで~

「そうですねぇ。自分にも他人にも、特に秘書には」

 湊は苦笑を浮かべる。耀は効率を重視し、年功序列を嫌い、仕事の成果だけで評価を下す。御曹司だからとすり寄ろうとする人間はすぐに見抜き、近くに寄せ付けないらしい。

「でも、ここのところ鋭い雰囲気が少しだけ和らいだように感じてて。結乃さんと暮らし始めたからじゃないですかね」

「うーん、そうでしょうか」

 ただ自分はご厄介になっているだけの居候のような存在だ。残念ながら何も貢献できていない。

 複雑な顔をしているのがミラー越しに見えたのか、湊は優しい声で「そうだと思いますよ」と続ける。

「専務は子供の頃から会長に三代目としてのレールを敷かれ、いろいろなことを強いられて育った人ですから。まあ気力も能力もあったから期待以上のものを返して来たんですけどね。でもそのせいでどこかいつも気が抜けない性分になったのかもしれない」

「なんだかわかる気がします」

 あの会長に厳しく育てられたら、いくら優秀な彼でも大変だっただろう。
 常に経営者となるべく期待を掛けられていたら気が休まらない。