「あなたは、嵯峨(さが)家の娘としてしかるべき教育と教養を身に着けさせたことになっているのだから」

「は、はい……伯母さま」

 結乃は背筋を伸ばしたが、すぐに緊張を誤魔化すように小さく溜息を吐き、車窓を眺めた。

(そうはいってもほぼボロでできてるからなぁ……)

 結乃は化学工場に技術者として勤める父・山崎義久(よしひさ)と、スーパーでパートタイマーとして働く母・美佐子(みさこ)、そして同居する父方の祖父母の元で生まれ育った。
 贅沢はできないけれど身の丈にあった生活。何より仲が良く笑いの絶えない家だった。

 しかし、結乃が高校に入ってすぐのある日、突然不幸が訪れた。
 両親が交通事故に遭い同時に亡くなってしまったのだ。

 両親の葬式の時、母の姉である伯母・嵯峨由美子と初めて対面し母が旧華族の流れをくむ嵯峨家の娘であることを知った。

(特売の大根を求めて隣町のスーパーまで自転車を走らせてたあのお母さんが由緒正しい家のご令嬢だったなんて、正直未だに信じられないけど)