秋風が感じられるようになった十月の大安吉日、山崎結乃は伯母と共にハイヤーに揺られていた。

 結乃が身に着けているのは赤く大きな扇柄の紋が入った派手な振袖。
 振袖を着るのは成人式時以来だ。
 もっともその時着たのはこんなに華美なものではなく、祖母のお友達が『孫が着たものでも良かったら』と貸してくれたピンク色の可愛らしい桜紋のもの。
 とても上品で素敵だったし、祖母に振袖姿を見せることができたのが嬉しかったことを覚えている。

 結乃は百五十六cmの身長で小柄。童顔なのでぱっと見二十四歳という年齢よりも若く、というか幼く見られがちだ。
 そのくせそこそこメリハリのある体つきなのが厄介で、凹凸が無い方が似合うといわれる和装にはあまり適さない体形。
 だから今日の服装はワンピースを希望したのだが、振袖以外絶対に認めないと伯母に却下された。
 ウエストには補正用のタオルがきつく巻かれ、その上には帯もしっかり絞められていて少々苦しい。

「結乃、とにかくボロは出さないように振舞うのよ」
 
 後部座席で隣に座る伯母が鋭い視線をよこす。