祖母は手厚い治療のかいもあり怪我自体は順調に回復している。
 今日は今後の治療方針について主治医と話をする予定だった。

 会社を出た結乃はタクシーで病院に向かった。夫には会社帰りに繁華街をひとりで歩くなと厳命されているのだ。
 
 結乃は一度酔っ払いに絡まれたところを助けられているので断りきれず、言われた通りにしている。

(まあ、耀さんは”宇賀地家の嫁”を守るためにこんなに過保護になってるだけなんだろうけど。ちょっと不思議よね)
 
 それなら、会社を辞めて家にいるように言えばいいのに結乃の意向を聞いて仕事を続けさせてくれている。
 安全にかかわること以外なら結乃の希望を受け入れるのだ。

 そういう面からも、彼は結乃をひとりの人間として尊重してくれている気がした。


 祖母の主治医の話は来週からリハビリ病棟に移って回復訓練をはじめられるという嬉しい内容だった。

「良かったね、お祖母ちゃん。本格的にリハビリ始められるようになって」
 結乃の声が喜びで弾む。

「うん、良かったよ。この部屋にずっといるのもなんか申し訳ない気がしてたからねぇ」
 祖母も安心したように笑った。