定時少し過ぎ、仕事を終えた結乃がパソコンの電源を落とし帰り支度をしていると同僚の千香子がニコニコと話しかけてきた。

「おっつかれ! 今日も旦那様とデート?」

 結乃は会社でも結婚を報告し、千香子には一度耀を紹介している。
 耀が度を越したイケメンであることに驚いていた千香子だが、宇賀地グループの御曹司であることを知るとさらに腰を抜かしていた。

『私としては結乃ちゃんが辞めないでいてくれて嬉しいけれど、将来の宇賀地社長夫人がここで仕事してて大丈夫なの?』

 そう聞かれた時、結乃は『夫がしばらくは思うようにしていいと言ってくれているから』とごまかした。

 離婚する時にお金をもらえるとはいえ、あくまで祖母の為に使うつもりだ。
 自分がこれから生きていくのに定職についていないのは困るから簡単に仕事を辞める訳にはいかないのだ。
 
 会社では旧姓の山崎で通している。”宇賀地”という姓は珍しいしなにかと目立つのだ。

「あはは、違いますよ。今日は私、お祖母ちゃんの入院先で先生の話を聞くことになっているんです」