結乃はずいぶんあの変わった鳥を気に入ってたから思ったからだ。
 案の定、彼女はとても喜び『私も耀さんに買ってもいいですか?』と選んだのが今耀が身に着けているネクタイだ。

 ネイビーの生地に小さいハシビロコウがいくつも刺繍されているデザインで、一見するとふつうのドット柄のように見える。

『耀さんが身につけるにはお安すぎるのかもしれませんが、デザインはきっと似合うと思うので』

(遠慮がちに差し出す彼女も、今朝自分がこれを身に着けたのを見て『やっぱり似合いますね!』と嬉しそうに笑った彼女もかわいかったな)

 妻の笑顔を思い浮かべていたその時、時執務室のドアが開き秘書の湊が入ってきた。

「専務、ご報告が……って、なんつー締まりのない顔してるんですか」

 初めて自分の表情が緩んでいたことに気が付いた耀は、無遠慮な秘書を睨みつつ否定する。

「そんなことは無いだろう」

 湊は耀自ら選んで秘書にした男だ。人当たり良く卒が無い一方、頭が切れ、恐ろしく仕事ができる。