「あの。春に式を挙げるのなら、どうしても挙げたい日があるのですが……」

藍は希望の日を伝えた。両家の両親は「その日がいいのなら」と藍の希望の日に式を挙げることを賛成してくれた。

藍が希望したのは四月一日である。



そして迎えた今日、藍はバージンロードを歩いている。参列席を見れば互いの会社関係の人間だけでなく、招待状を送った友達の姿もあった。友達の結婚を祝福するその笑顔が虚しく、藍は目を逸らしてしまう。

バージンロードの先には、夫となる彰人が待っている。その瞳には憂いがあるように藍には見えた。お互い、結婚式という幸せに溢れる日にはあまりにも不似合いな表情である。

(今日、式を挙げられてよかった)

彰人に手を取られ、隣に並びながら藍は思う。今日は世間ではエイプリルフールと呼ばれる日だ。一年の中で唯一嘘を吐くことが許されている。

「新婦藍さん、あなたは彰人さんを愛することを誓いますか?」

「はい。誓います」

神の前で藍は今、大きな嘘を吐いた。