階段を駆け下りて、玄関に向かうと母と友人らしき話し声がする。
足音で気がついたのか、母は振り返って俺を見る。
宗弥(しゅうや)くんが遊びに来てくれたわよ」
「…宗弥か」
宗弥なら、突然会いに来るのも納得だ。
宗弥は、俺の友人だ。明るいムードメーカーな存在だが、時に破天荒なところがある。
「陣!今、空いてるか?」
「空いてるけど、どうした?」
「もし暇だったら遊びに行こうぜって言おうと思って!」
「…」
やっぱり、何もかもが急だな。

「…分かった、丁度暇だったし行こうか。母さん、行ってきてもいい?」
「えぇ、勿論行ってらっしゃい。宗弥くん、陣を頼むわよ!」
「分かりました母さん!」
いつも俺が世話を焼くんだけどな。それに、母さんは宗弥の母さんじゃないし。
「じゃあ、準備してくる」
「おう!」


また階段を駆け上がって部屋に向かう。一旦部屋のドアを閉めて、外と遮断する。
「はあ…」
本当に急すぎるんだ。誘ってくれるのは嬉しいけれど、こちらにも準備というものがある。
「どうしよう」
クローゼットを開けて服を探すが、何を着ようか迷ってしまう。
もういっそ、このまま着替えずにパーカーを着て行ってもいい気がする。…相手は宗弥だし。
そう考えた俺は、あのストラップがついた良く使う鞄を手に持って、着替えずに行くことにした。

また階段を駆け下りて、玄関に向かう。
本日何度目だろうか。
玄関には機嫌が良さそうに、体を左右に少しずつ揺らしている宗弥と笑顔で話している母がいた。
…本当に、仲が良いな。
お互いに明るい性格だからか気が合うんだろう。対照に、明るい性格とは言い難い…暗めの性格の俺だ。
どうして宗弥は俺と友人になって、こうして誘ってくれているんだろう。
もっと明るくて、一緒に居て楽しい人が他に居るはずだ。

「ごめん、待たせた」
「よし、じゃあ行こうぜ!」
「ああ」
そう言って俺たちは玄関に立つ母に手を振って、歩き出した。