宗弥は黙々と本を読み進めていた。
一方、俺はというと、宗弥が持参したゲームを借りた。
たまに話しかけては返事をしてを繰り返すだけで、お互い自分のことに集中している。
すると突然、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はーい」
俺が返事をしてドアを開けると、母さんが立っていた。
「これ、宗弥くんと分けて食べなさい。この間、お隣の家の方がくれてね。とっても美味しいから!」
そう言い、母さんは個包装のお菓子とジュースののったお盆を差し出す。
「ありがとう」
「いいのよ。それにしても静かねえ、喧嘩でもしたの?」
「違うよ」
「喧嘩なんてしてないですよー!」
宗弥は本を閉じて、話に入ってくる。
「陣が面白い本を見せてくれて、すごい入り込んじゃって…って、え!何このお菓子!」
宗弥の目は、俺が母さんから受け取ったお菓子とジュースののったお盆を映している。
その目はきらきらと輝いていた。
「一緒に食べよう」
「やったー!ありがとうございます」
「いえいえ!ジュースが無くなったら言ってね」
「ああ」
母さんはニコニコとしながら軽く手を振ってドアを閉める。
それから階段を降りる足音が聞こえた。
「これ、なんのお菓子だろうな」
「俺も知らなーい。とりあえず食ってみようぜ」
「先に宗弥が食べてよ」
「なんだよ、毒見みたいにさー」
「宗弥でさえ甘かったら、俺はきっとやばい」
そう、俺は甘いものが苦手だ。
対して宗弥は甘いものが大好きなので、普段から口にしている。
そんな宗弥でさえ甘いと感じるものだったら、俺にはとても食べられない。
それに…見たこともないお菓子で未知なものだし。
あ、美味しかったと言っていた母さんに聞けばよかったかな。
「お…?陣、見てみて」
「ん?」
宗弥は開けたお菓子を見せる。それはまるでウエハースのようだった。
「ウエハース?」
「そうっぽいぞ、食べてみるか!」
宗弥はウエハースを袋から取り出して口にした。
サクッとウエハースを噛む音がする。
「どう?」
「んー、美味しい!けどそこまで甘くないな」
「おぉ、じゃあ俺も食べてみよう」
俺も袋から取り出して食べてみる。
「ん、良いくらいの甘さだな」
「これ、なんてお菓子なんだろう?」
「雷鳥の里って書いてあるな」
「雷鳥?」
「調べてみるか」
俺はスマホを手に取り、検索をかけた。
「へえ、長野のお菓子らしい」
「じゃあお隣さんは長野に行ったのか」
「そうみたいだな」
「長野かー、俺行ったことないな。陣はあるだろ?」
「いや、俺もない。母さんたちは行ってるだろうけど」
「え、意外。陣のことだからあるのかと思った」
「なんだよそれ」
「だってさー、陣って急な行動力発揮するじゃん?」
「そうか?」
宗弥の言葉に思わず笑ってしまう。そう言う宗弥だって普段からの行動力は凄まじいじゃないか。
_宗弥と出会ったのは、高校に入学してからだった。
入学式の新入生呼名で、同じクラスで誰よりも大きい声で返事をして目立っているやつがいた。
元気なやつだななんて思いながら入学式を終え、教室に戻ると自己紹介をするという典型的な流れになった。
みんなが順番に自己紹介をしていき、宗弥の番になった。
「小野宗弥です!えっと…好きなことはゲームです。戦闘系とか色々やってるので、良かったら一緒にやりましょう!あと、絶賛彼女募集中です。よろしくお願いします!」
宗弥が自己紹介を始めたときに分かった。
こいつだ。あの元気なやつは。まさか、俺と隣の席だったなんて。
宗弥が自己紹介をすると、どっと教室中に笑いがはじけた。
それから、やはり宗弥は周りと馴染むのに時間はかからなかった。
みんなが宗弥と仲が良くて、嫌っている人を見たことがないくらいに人気者になっていた。
対して俺はというと、なかなか周りと馴染めずにいた。
休み時間には一人で読書。お昼時間もみんな誰かと一緒に居て賑わっている中、一人で隅の方で食べていた。
正直、いつまでこんな生活が続くんだろうと焦っていた。
一人で読書をする時間は嫌いじゃないし、別に一人でも大丈夫だけど、本音は周りが眩しく見えて羨ましかった。
でも俺には声をかける勇気もないし、宗弥のように明るくもない。
みんなに好かれている宗弥が羨ましくて、前世にどれほど良いことをしたのだろうと思う。
そして今日も、いつも通り一人で弁当を食べようとしていた時だった。
「なあ、一緒に食べない?」
「…え」
「あ!嫌だったら無理強いしないから!」
「いや…いつも他の人たちと食べてるからいいのかなって」
「あー、実はあいつら補習で少し遅れるんだよな。どうしようって思ってた時に、そういえば隣の子とまだ話したことないなって思って」
「なるほど…」
なんだ、そういうことかと思った。結局、話し相手が居なくなったから俺のところに来ただけ。
そう考えると、少しだけムカついた。
「俺らさ、せっかく隣なのに話したことないよな」
「そうだね」
「えっと、名前なんだっけ…」
「俺は__」
「あ!陣君だ!」
「え…?」
俺が言う前に、宗弥は名前を言った。
一度も話したことがなくて、特に目立つような自己紹介をしたわけでもない。普段だって、端の方に一人で居るような人間なのに。それなのに、覚えていてくれたなんて。
その時に分かった気がした。
宗弥がみんなに好かれて、仲が良い理由を。
人のことをちゃんと見ていて、ちゃんと覚えている。
これはきっと、誰にも出来ることじゃない。
俺は高ぶる気持ちを抑えつつ、話しかける。
「なんで覚えていてくれたんだ?」
「いや、陣って名前かっこいいなーって思っててさ。あとすごい難しそうな本を読んでる人って覚えてる」
「そっか。…ほんとは、ずっと話したいって思ってたんだ。でも、勇気なくて」
「えー!話しかけてくれたら良かったのに!まあ、こうやって話せてるからいいけどね」
「宗弥は、確かゲームが好きなんだよな?」
「そうそう、覚えててくれたんだ」
「新入生呼名の時に、すごい元気なやつだなって覚えてた」
「あー…あれ、実は緊張しすぎて力が入っちゃったんだよ」
照れくさそうに笑いながら言う。
「え、そうだったのか」
「うん。あ、みんなには内緒だからな!ほんとに恥ずかしかったから…」
そう言いながら頬を真っ赤に染めた宗弥は、少しだけ可愛いやつだと思った。
それから俺たちは、毎日のように話すようになって、休み時間もずっと一緒にいるようになった。
宗弥の人脈の広さには毎度驚かされるが、そのおかげで友達も多く出来て、充実した学校生活を送れている。
高校を卒業すれば大半が別れてしまうだろうが、宗弥とはずっと一緒に居たいと思う。
これからも俺の知らないことをもっと教えてほしいし、俺も宗弥に教えたい。
大人になって、一緒に遠くへ無計画な旅をしたい。
そう思えたのは宗弥だけだった。
一方、俺はというと、宗弥が持参したゲームを借りた。
たまに話しかけては返事をしてを繰り返すだけで、お互い自分のことに集中している。
すると突然、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はーい」
俺が返事をしてドアを開けると、母さんが立っていた。
「これ、宗弥くんと分けて食べなさい。この間、お隣の家の方がくれてね。とっても美味しいから!」
そう言い、母さんは個包装のお菓子とジュースののったお盆を差し出す。
「ありがとう」
「いいのよ。それにしても静かねえ、喧嘩でもしたの?」
「違うよ」
「喧嘩なんてしてないですよー!」
宗弥は本を閉じて、話に入ってくる。
「陣が面白い本を見せてくれて、すごい入り込んじゃって…って、え!何このお菓子!」
宗弥の目は、俺が母さんから受け取ったお菓子とジュースののったお盆を映している。
その目はきらきらと輝いていた。
「一緒に食べよう」
「やったー!ありがとうございます」
「いえいえ!ジュースが無くなったら言ってね」
「ああ」
母さんはニコニコとしながら軽く手を振ってドアを閉める。
それから階段を降りる足音が聞こえた。
「これ、なんのお菓子だろうな」
「俺も知らなーい。とりあえず食ってみようぜ」
「先に宗弥が食べてよ」
「なんだよ、毒見みたいにさー」
「宗弥でさえ甘かったら、俺はきっとやばい」
そう、俺は甘いものが苦手だ。
対して宗弥は甘いものが大好きなので、普段から口にしている。
そんな宗弥でさえ甘いと感じるものだったら、俺にはとても食べられない。
それに…見たこともないお菓子で未知なものだし。
あ、美味しかったと言っていた母さんに聞けばよかったかな。
「お…?陣、見てみて」
「ん?」
宗弥は開けたお菓子を見せる。それはまるでウエハースのようだった。
「ウエハース?」
「そうっぽいぞ、食べてみるか!」
宗弥はウエハースを袋から取り出して口にした。
サクッとウエハースを噛む音がする。
「どう?」
「んー、美味しい!けどそこまで甘くないな」
「おぉ、じゃあ俺も食べてみよう」
俺も袋から取り出して食べてみる。
「ん、良いくらいの甘さだな」
「これ、なんてお菓子なんだろう?」
「雷鳥の里って書いてあるな」
「雷鳥?」
「調べてみるか」
俺はスマホを手に取り、検索をかけた。
「へえ、長野のお菓子らしい」
「じゃあお隣さんは長野に行ったのか」
「そうみたいだな」
「長野かー、俺行ったことないな。陣はあるだろ?」
「いや、俺もない。母さんたちは行ってるだろうけど」
「え、意外。陣のことだからあるのかと思った」
「なんだよそれ」
「だってさー、陣って急な行動力発揮するじゃん?」
「そうか?」
宗弥の言葉に思わず笑ってしまう。そう言う宗弥だって普段からの行動力は凄まじいじゃないか。
_宗弥と出会ったのは、高校に入学してからだった。
入学式の新入生呼名で、同じクラスで誰よりも大きい声で返事をして目立っているやつがいた。
元気なやつだななんて思いながら入学式を終え、教室に戻ると自己紹介をするという典型的な流れになった。
みんなが順番に自己紹介をしていき、宗弥の番になった。
「小野宗弥です!えっと…好きなことはゲームです。戦闘系とか色々やってるので、良かったら一緒にやりましょう!あと、絶賛彼女募集中です。よろしくお願いします!」
宗弥が自己紹介を始めたときに分かった。
こいつだ。あの元気なやつは。まさか、俺と隣の席だったなんて。
宗弥が自己紹介をすると、どっと教室中に笑いがはじけた。
それから、やはり宗弥は周りと馴染むのに時間はかからなかった。
みんなが宗弥と仲が良くて、嫌っている人を見たことがないくらいに人気者になっていた。
対して俺はというと、なかなか周りと馴染めずにいた。
休み時間には一人で読書。お昼時間もみんな誰かと一緒に居て賑わっている中、一人で隅の方で食べていた。
正直、いつまでこんな生活が続くんだろうと焦っていた。
一人で読書をする時間は嫌いじゃないし、別に一人でも大丈夫だけど、本音は周りが眩しく見えて羨ましかった。
でも俺には声をかける勇気もないし、宗弥のように明るくもない。
みんなに好かれている宗弥が羨ましくて、前世にどれほど良いことをしたのだろうと思う。
そして今日も、いつも通り一人で弁当を食べようとしていた時だった。
「なあ、一緒に食べない?」
「…え」
「あ!嫌だったら無理強いしないから!」
「いや…いつも他の人たちと食べてるからいいのかなって」
「あー、実はあいつら補習で少し遅れるんだよな。どうしようって思ってた時に、そういえば隣の子とまだ話したことないなって思って」
「なるほど…」
なんだ、そういうことかと思った。結局、話し相手が居なくなったから俺のところに来ただけ。
そう考えると、少しだけムカついた。
「俺らさ、せっかく隣なのに話したことないよな」
「そうだね」
「えっと、名前なんだっけ…」
「俺は__」
「あ!陣君だ!」
「え…?」
俺が言う前に、宗弥は名前を言った。
一度も話したことがなくて、特に目立つような自己紹介をしたわけでもない。普段だって、端の方に一人で居るような人間なのに。それなのに、覚えていてくれたなんて。
その時に分かった気がした。
宗弥がみんなに好かれて、仲が良い理由を。
人のことをちゃんと見ていて、ちゃんと覚えている。
これはきっと、誰にも出来ることじゃない。
俺は高ぶる気持ちを抑えつつ、話しかける。
「なんで覚えていてくれたんだ?」
「いや、陣って名前かっこいいなーって思っててさ。あとすごい難しそうな本を読んでる人って覚えてる」
「そっか。…ほんとは、ずっと話したいって思ってたんだ。でも、勇気なくて」
「えー!話しかけてくれたら良かったのに!まあ、こうやって話せてるからいいけどね」
「宗弥は、確かゲームが好きなんだよな?」
「そうそう、覚えててくれたんだ」
「新入生呼名の時に、すごい元気なやつだなって覚えてた」
「あー…あれ、実は緊張しすぎて力が入っちゃったんだよ」
照れくさそうに笑いながら言う。
「え、そうだったのか」
「うん。あ、みんなには内緒だからな!ほんとに恥ずかしかったから…」
そう言いながら頬を真っ赤に染めた宗弥は、少しだけ可愛いやつだと思った。
それから俺たちは、毎日のように話すようになって、休み時間もずっと一緒にいるようになった。
宗弥の人脈の広さには毎度驚かされるが、そのおかげで友達も多く出来て、充実した学校生活を送れている。
高校を卒業すれば大半が別れてしまうだろうが、宗弥とはずっと一緒に居たいと思う。
これからも俺の知らないことをもっと教えてほしいし、俺も宗弥に教えたい。
大人になって、一緒に遠くへ無計画な旅をしたい。
そう思えたのは宗弥だけだった。
