アイスを食べながら電車を待つ。
もう一つ前の電車でも良かったかもしれない。
都会では考えられないくらいの本数が走っていて、駅も迷子になるほど複雑だ。
何度か仙台に行ったことがあるが、やはり人はたくさんいる。
様々な環境音が飛び交う中で、ここの駅は田舎だからか静かだ。

盲導鈴の音、
木々が風に揺らぐ音、
鳥の鳴き声、
少し離れたところから聞こえる車の走行音、
隣から聞こえる宗弥の、鼻を啜る音。

これらが、これからも変わらずに聞こえていたら、それほど幸せなことはない。
これからも、変わらないことを願う。

「お、そろそろだな。」
アイスを食べ終えた俺たちは、立ち上がりゴミ箱にゴミを捨てた。
「店に着いたら何しようか。」
「さっき調べてたんだけどさ、めっちゃデカいゲーセンがあって、最近話題らしいぜ。」
「へぇ、いいな。」
「俺、そこ行きたい!あとは、陣が好きそうな大きめの本屋もあるみたいだぞ。」
「じゃあ、ゲーセン寄って本屋も見よう。」
「おう!」
それから数分待っていると、電車がやって来た。
電車が走る音はとても大きくて、花火のように腹に響く。


電車に乗ったものの、席が空いていなかったので端の方に立つ。
電車に揺られ転びそうになって、焦って吊り革を掴む。
そんな中、宗弥は足を肩幅くらいに開いて何にも捕まらずに立っていた。
「宗弥、掴まった方がいいんじゃないか?」
結構揺れるぞ、と付け足す。
「いや、体幹トレーニング。」
「はあ…」
たまに激しく揺れるとふらつくものの、変わらず掴まらない。体幹トレーニングにはなるだろうが、そこまで意地を張らなくても。
「疲れないのか?」
「陣もやってみろよ。そうだ、対決しようぜ!先に足が動いた方の負けってことで。」
「え…」
やだよ、面倒くさい。俺は宗弥と違って、運動は大の苦手なんだ。
体育がある日は一気に気分が下がるし、座学ほど最高なものはない。
ちなみに、俺はよく「真面目だね」とか言われるが、全くそんなことはない。
ただ読書が好きで、一人で出かけるのが好きなだけの高校生。
勉強をきちんとやろうとか、授業をしっかり聞こうとか思ったことは一度もない。
面倒くさいとしか思っていないし、そんな時間があるなら本屋に行きたい。
そんな、ただの面倒くさがり屋だ。

「遠慮しとく…」
「ちぇ。」
宗弥は俺のノリの悪い返事に、口を尖らせる。

途中の駅に着いて、電車が停まる。俺たちが降りる駅はまだ先だ。
人気のない駅で、降りる人は数人いたが乗ってくる人はいなかった。
俺たちが立っていた近くの座席が空いたので、ふう、と息を吐いて腰を下ろす。
「着くまで寝るよ。」
「はいはい、おやすみなさいー。着いたら叩き起こすからな!」
「あぁ…」

俺は目を閉じて、電車のガタン…ゴトン…というジョイント音に意識を集中させる。
この音を聞いていると眠くなる。
少し目を開けて、隣に座る宗弥を見ると、ラインを開いてさくちゃんと会話をしていた。
再度目を閉じる。
真っ暗になった中で、電車のガタン、ゴトンという音だけが聞こえる。
俺はそのまま眠りについた。