次の日のお昼休み、理央は教室でお弁当を食べてから、咲に誘われて、もう一度、食堂まで足を運んでいた。
「あっ、今日はいたよ、先輩!」
弾むような声の咲の隣から、食堂を見渡すと、遠くのテーブルで、複数の生徒と座っている悠斗の姿を確認できた。
悠斗がいる。
悠斗はいつも食堂にいるって本当だったんだ…。
そして、その悠斗の周りを取り囲むように、沢山の女の子達が集まってきていた。
「あーぁ、やっぱり今日も囲まれちゃってるね〜」
「甘いお菓子に群がる蟻みたい…」と、咲の深いため息。
『今日も』と言う事は『いつも』なのだろう…
察しはついていた理央だが、改めて悠斗はモテるのだという事を認識させられていた。
少し困ったように笑う悠斗などお構いなしに、彼女達は興奮したように、悠斗に話しかけている。
恋の熱気が、出入り口に立っている理央の元まで伝わってきて、今まで悠斗の人気など、全く知らなかった理央は、その迫力を目の当たりにしてポカンと口を開けていた。
「す、すごい…ね…」
「何を感心してるの、理央。先輩、奪い返してこなくてもいいの?」
咲が呆れたように、理央の顔を覗き込む。
「うっ、奪う!?む、無理無理無理無理…!私に出来る事なんて何もないよ!」
「だからって、理央はここから指加えて見てるだけ?それじゃ、つまんないじゃない?」
「さ、咲ちゃん…」
「まぁ、いつもおとなしい理央が、一人でしゃしゃり出ていくのは、ガツガツしすぎっていうか、いまいち美味しくないしねぇ?」
「うーん、どうしたもんだろう…」と、あれこれ考え出した咲は、既に自分の世界に浸り込んでいるようだ。
「私、咲ちゃんの期待には応えられないと思う…」
咲ちゃんが何を求めてるのか分からないけど、私はここから悠斗を見ているだけで、満足…
「ねぇ、理央?実際、あれを目の当たりにして何も思わないわけ?」
咲に促され、再び悠斗に視線を移すと、悠斗の周りにいた女子の数名が、肩とか背中とか、悠斗の身体にさり気なくボディタッチをしている光景が目に入る。
「お触り、させていいの?」
「そ、それは…」
さすがに、何も思わないわけがない……
悠斗にその気がない事は分かっているにしても、悠斗に好意を抱いてる女の子達が、悠斗と話すだけならまだしも、悠斗に直接触るなんて、いい気持ちになるはずがない。
だって、あれは昨日まで、理央を愛でてくれた悠斗の身体…。
いつかも渦巻いた黒い感情、それを再び意識し出した時、背後から誰かに声をかけられた。
