完璧御曹司の溺愛




 いつになく弱気な事を言い出す母、涼子。


 母は、おじさんを愛しながらも、父の事でずっと悩んでいたのだろうか?と理央は思う。


 母と父は気持ちを通わせながらも、死別というかたちで別れなければならなかった。


 他に好きな人が現れたからでも、気持ちが冷めたわけでもなく……


 幸せの矢先、自分だけを残し、愛する人が目の前からいなくなる孤独。


 それがどれ程辛いことか、悠斗を好きになった理央には少なからず理解できた。



「お母さん、この家にはね、お父さんの家族を愛する想いがこめられているんだって…」


「…芳樹さんの、家族の想い…?」


「うん。悠斗がね、この家を見た時、そう言ってくれたんだよ?」


「悠斗君がそんな事を……」


「私も、そうかも知れないって思ったの。私はお父さんの事、写真でしか見た事がないけど、写真の中のお父さん、いつだって笑顔だったよね?小さな私を抱っこする時も、病に伏せてしまった時も、遺影の写真だって笑顔で。私、お父さんはいつも幸せだったんだって分かるよ?だからお父さんは、お母さんを恨んだりしない、絶対にしない…」


「理央…」


「お母さん…、おじさんと幸せになってね…」


 それは、理央がずっと言いたかった、心からの言葉だった____


 理央はそっと、涼子を抱きしめ返す。



「ありがとう。でもね…幸せになるのは私だけじゃない。あなたも一緒に、もちろん悠斗君も、家族全員で幸せになるのよ…」



 そのセリフを聞いて、悠斗を愛してしまった、理央の胸の奥はズキンと痛んだ。


 私達が愛し合ってることを、この先、母やおじさんが許してくれる日はくるだろうか……


 おじさんは社長だから、会社の外聞もある。

 唯一の後継者である悠斗が妹を愛すなんて、まず賛成はしてくれないだろう。


 学校でも理央の名字が変わったら、必然的に悠斗と兄妹になった事が知られてしまう。

 その時、好きあっている事がバレたら、私はともかく、人気者の悠斗に悪い評判がたってしまうかもしれない。


 そんなのは、耐えられない…。


 だから、互いの気持ちに嘘をつきながら過ごす生活は、当然のごとくやってくるはずだ。




「うん…そうだね」


 理央は母親の胸の中でそっと目を閉じた。


 それでも私は、悠斗と一緒にいる道を選んだ。

 悠斗を信じているし、悠斗を守ると決めた。



 真っ暗な瞼の裏側で思い出すのは、悠斗の優しい笑顔だった_____