完璧御曹司の溺愛




「避ける?俺が理央を避けるわけがないよ?」


 どこまでも優しい声。


 でも、理央の不満は拭えなかった。


 待っていたかのように答えたその声は、自分が避けているのを認めたように聞こえたからだ。


「避けてるよ。なんだか、悠斗の心が離れていくように感じるの」

 
 優しい悠斗が好きなのに、理央の胸は押しつぶされそうだった。


「…初めて会った時、悠斗は私を助けてくれた。私の気持ちを理解してくれた。そのままの私でいいって言ってくれた。でも私、それじゃ嫌なの。私だって、悠斗の助けになりたい。一番の理解者になりたい。いつでも側で寄り添ってあげたい」


「ありがとう、理央。気持ちは嬉しい。でも、理央に俺の気持ちは分からないと思う…」


「どうして?」


「だって理央は、俺の事が好きじゃないから」


「…っ」


「いいんだよ、それで。俺が一番に守りたかったのは、理央の気持ちだったから…」


 悠斗の切なげな顔と向き合ったとき、理央はやっと気がついた。


 人の気持ちは、秤に乗せて比べる物じゃない。

 
 綺麗な言葉を、いくつ並べるかじゃない。



 どれだけ真摯に誠実に、自分の気持ちを伝えるかなんだ―――


 私はずっと、悠斗にどう気持ちを伝えるか必死になってた。
 

 悠斗の心に響かないと意味がないって思ってた。


 だけど本当は、そこに何の理由もいらない。


 気の利いた美しい言葉なんていらない。


 必要なのは、たった一つの言葉だけ。



「…違う、違うの。私も、悠斗が好きなの」