ベッドの上で悠斗は、いつからか、理央の髪を撫でてくれている。
その優しさと胸の温もりに囲われて、理央をこれ以上ないってくらい、幸せの高みへ連れて行く。
明日、地球の滅亡を迎えてもいいとか、何百年何千年、世界が朽ち果てるまでこのままで過ごすのもいいとか、理央はバカな事を考えていた。
それくらい、この人は私を狂わす。
どうしようもなく、この甘い香りに惹かれてしまう。
「理央、体勢大丈夫?辛くない?」
「ん、大丈夫。それよりも起こしちゃってごめんね?きっと5分くらいしか寝れなかったよね?」
「いいよ。寝起きが理央のドアップなんて、なかなか刺激的だったよ」と、クスリと笑った悠斗の吐息が髪にかかる。
「ゆ、悠斗と一緒に眠ってたら、足が痺れて倒れちゃったの」
「じゃあ、足の痺れが消えるまでは、理央をこのまま抱きしめられるって事だね」と、悠斗は少しだけ、理央を抱きしめる腕に力を入れた。
「ゆ、悠斗…」
「俺にこうされるのは嫌?」
「……嫌じゃないよ」
嫌な訳がない。
そんなふうに、聞かないで欲しい…。
「良かった………」
悠斗がゆっくりと息をはいたのが分かった。
悠斗のシャツは、悠斗の匂いがする。
ガッシリとした男らしい胸板は温かい。
悠斗が息をするたびにそれが上下する。
当たり前の事なのに、奇跡のようにさえ感じる。
まだしばらくは、こうやって甘えていたい…。
悠斗のお迎えがここにやって来るまではこのまま……。
「でも、そろそろ起きた方がいいかも…」
その声が、理央を一気に現実へと引き戻す。
「さすがに理央が部屋で、再婚相手の息子と二人きりだなんて、涼子さんは良い気がしないんじゃないかな?」
再婚相手の息子
悠斗が、自分自身の事をそう言った事が、胸にズキンときた。
だって、まるで、自分だけが他人みたいな言い方…。
確かに、悠斗はそう思っているのかもしれない。
自分以外は皆、幸せな理想の家族を築き上げようとしているのだから、理央に一人、恋心を抱いている自分は、蚊帳の外だと思っていても不思議じゃない。
