「さっき、仏壇の遺影の写真を見せてもらったけど、理央はお父さん似なんだね」
理央の隠れた嫉妬など、まるで気がつかずに話し続ける悠斗。
そんな悠斗の声と一緒に、理央は悠斗の心臓の音を聞いていた。
悠斗の心音は、やはり緊張とは無縁のようになだらかだ。
荒れ狂っていた理央の心臓も、悠斗の心音に同調するかのように、次第に落ち着いてくる。
「大きな瞳も、サラサラの茶色いこの髪もお父さんに似ているし」
理央自身も、自分は父親似だと思っていた。
母の涼子は、どちらかというと黒髪で目元は涼し気な一重瞼。
そんな母とは対照的に、理央は地毛が茶色く二重瞼のくっきりとした瞳だ。
「理央は小さな時から、とても可愛かったんだね…」
食事の前、リビングで悠斗が理央の幼い頃の写真を見ていた事を思い出した。
なんとなく、恥ずかしさから話題を悠斗に変えてしまった。
「悠斗も、お父さん似だよね?」
「そうかな?」
「悠斗のお母さんの顔も、悠斗の小さな頃も分からないけど、レストランで会った時、佇まいも、顔立ちも、髪の色もおじさんにそっくりだって思ったよ」
「おじさんが若返ったみたいだった」とクスリと笑うが、あの時はそんな余裕なんてなかったな…と理央は思う。
あの夜、正装していた悠斗は、初心な理央には声をかけられないほど、艷やかで格好良かった。
だけど、その笑顔は花が開いたように優しく、声は蜜のように甘く穏やかで、緊張はしていたが、どこか親しみやすさも感じていた。
自分では気が付かない、本能的な部分で悠斗に近づいてみたいと思っていたのか、悠斗にテラスに誘われた時、実は嬉しかった。
初々しい何かが、確実に自分の胸の中から芽生える予感に、胸の奥がざわめいていた……。
