初対面の人相手に、どうしてこんなに胸が高鳴るのか、理央には分からなかった。


「申し訳ないけど、さっきの会話、聞かせてもらったよ」と、瀬戸先輩と呼ばれた彼は、ようやく理央から目の前にいる二人へと顔を向けた。


「理央に酷いことを言うのは許さない」


 強く冷徹に響く声音。


 それは、この場の空気を痺れさせるように威圧的で、理央は彼の腕の中で無意識に身体を固くしていた。


「理央を騙して、もてあそんだ事も、いくら理央の幼なじみでも俺が許さない」
 

 裕太が「うっ…」と怯むのが、理央にも伝わる。


 この後の裕太の態度次第では、この場で殴りかかることも厭わないくらい、瀬戸先輩からは猛烈な怒りが滲み出ているからだ。


 裕太は身長が高い方だが、瀬戸先輩はそんな裕太よりも背が高く、引き締まったしなやかな体躯をしていた。


 そんな先輩に見おろされ、鋭く睨まれていては裕太は頭を下げて「…悪かった」と、謝罪をするしかなかった。


「……謝られても、俺の怒りが消えたわけじゃないけど」と、瀬戸先輩は腑に落ちないように呟く。


 先輩は先ほどから、どうして私を庇ってくれるのだろう?と、理央は不思議だった。

 
 理央を守ってくれようとする瀬戸先輩の態度や行動は、ただの同情や親切心からきているものとはどうしても思えない。


 その時、理央が抱いた事と同じ疑問を、遥が口にした。


「先輩…どうしてですか?どうして、そんなに桜井さんを庇うの?」


 でも、瀬戸先輩はその質問には答えずに、真剣な表情のまま、裕太へと視線を向けた。


「単刀直入に聞くけど、君は、理央の事どうするつもり?二人は、付き合ってるって聞いたんだけど…?」