「…ぐっ…」と、呻く、裕太の声がした。


 理央が顔を上げた瞬間、理央の手首は解放され、誰かに身体を引き寄せられていた。

 
 そのままスッポリ、相手の胸に収まるような形になった時、待ち焦がれていたあの爽やかな匂いがして、思わず涙がこぼれそうになった。


 理央を守るように抱きしめる、もう、何度目か分からない腕の感触。


____悠斗だった。


  
 悠斗は片腕で理央を抱き寄せながら、もう片腕で裕太の胸ぐらを掴んでいた。



「……理央に触るな」


 低い声で裕太を睨みつける悠斗は、この間の理科室の時よりも更に憤っていて、一瞬にして、その場の空気は張り詰めた。


「っ……」


 裕太は苦しそうに顔を歪ませたまま、身動きがとれずにいる。


「理央に指一本触れるなと、言ったはずだ」


「…っ、分かった」


 悠斗が腕を解放すると、裕太は側に落ちてしまったカバンをよろよろと拾い上げる。


「また、同じ事を理央にしようとしたら、次はその胸を掴むだけじゃ終わらないからな」


 そう言う悠斗の理央を抱く腕に、少し力がこめられたのを、理央は静かに感じていた。


 面白くなさそうに鼻を鳴らして、裕太はそのまま去っていく。