とっさに身体をよじってみたが、手首はびくとも動かなかった。


 それ程、強い力で手首を抑えつけられていて、掠れたような声が空を切るだけ。


「や…」


「……理央。俺、理央が好きだ…」


 そう告げた裕太の瞳は不安定に揺れていた。


 狂ったような情熱を秘めてるようにも見える。


 荒々しい感情が伝わり、理央は危機感を更に強めた。



 本気だ。


 昨夜、悠斗の言った通り。


 裕太は、本気なんだ____



「は、離して…」


「どこにも行くな。昔みたいに側にいろ」


「……っ」


 怖い。 

 こんなやり方、間違ってる。


 そう言いたいのに、言葉が出てこない。

 理央は、力なく首を横に振るのが精一杯だった。



「あの先輩、しばらく学校来ないんだってな。だったら、その間だけでもいい。俺の物になれよ」



 耳元でそう囁いた裕太の顔が、そのまま近づいてきた。


 口づけを迫られていると分かって、全力で身体に力をこめるが、かすかに指を動かす事しか出来ず、無力感に視界が歪む。


 目を閉じて、思い切り顔を背けた。


「嫌っ…」



 いやっ…いやだっ……!


 キスなんて、されたくないっ!


 悠斗以外に触られたくない!


 私は悠斗が好きなのに、こんなの嫌だよ……


 誰か、誰か助けて……


 悠斗、お願い……


 助けて……!



 心からそう、叫んだ時だった―――