「三春ちゃんは、私達の事反対しないんだね」


「反対?私がか?」


 三春は、理央の言葉に意外そうな顔をした。 


「だって、三春ちゃんは大人だから。その、恋愛に関しても大人よりなのかと思って…」


 所詮は10代の子供の恋愛だと、学校の職員という立場に身を置いている三春に思われても仕方がないと、理央は思っていた。


 兄妹という障害があるのなら尚更、この先もっといい人が現れる、お前達は恋に恋してるだけなのだと、最もな事を、大人なら言いそうだと、理央は思っていたのだが……


「まぁ、大人だが…。私はまだ20代の独身だぞ?」と三春は、あえてそこはしっかり主張する。


「それに、私はここの保健医だ。心身ともに生徒を元気にさせる立場にある私が、恋に思い悩み、葛藤する生徒の背中を押してやりたいと思うのは当然だ」


 元々、口数の少ない三春は、入学当初から、理央が保健室へ来るたび、理央の目眩の原因に触れてこようとしなかった。

 だから理央は、生徒にあまり余計な干渉をしない人なのだと思っていた。

 でもある時から、三春は理央に関心がないのではなく、過度な干渉が返って、理央のストレスを強める事になると分かっていたのだと気が付いた。

 それは、三春の生徒想いの優しい人柄を物語っていた。

 改めて理央は、三春はどこか毒舌なクールキャラながらも、沢山の生徒に慕われている理由を理解していた。


「三春ちゃんっていい人だね」


「今頃気づくなよ。お前は、ここに通った回数が人一倍多いんだぞ」と、三春は呆れ顔。


「そうだね。でも、本当にもったいないよ。三春ちゃんは美人なのに何で…」


「男っ気がないのかは言うなよ?世の男に見る目がないだけなんだからな」


「実に愚かだ…」と、強がってみせる三春が子供みたいに見えて、理央はクスクスと笑った。


「十年たっても三春ちゃんにいい人が現れなかった時は、私が結婚してあげたいくらいだよ」


「桜井、お前さっきから、私をからかって遊んでいるだろう?」 


 三春が整った眉を怪訝そうに歪めたから、理央は更に可笑しくて笑ってしまった。


 その理央の笑顔に安心したかのように、三春も笑みを浮かべた。