「やっと、自覚出来たみたいだな…」
遥とは違う声が聞こえて、いつの間にか俯いていた理央は顔を上げた。
理科室の出入り口に立っていたのは、三春だった。
「たまたま通りかかったら声がしたから、聞かせてもらった」
「三春ちゃん…」
「保健室で瀬戸は、自分の気持ちをしっかり自覚してたみたいだけど、桜井はあまりに無頓着な様子だったから、瀬戸が不憫でな……」
「やっと、あいつの気持ちが浮かばれたみたいだ」と、苦笑する。
そして、三春は遥に目を向ける。
「水島は諦めた方がよさそうだぞ?瀬戸がどれだけ桜井に夢中か、私はこの目で見たからな。瀬戸は桜井以外、誰にもなびかないと私は思う」
「…っ」
遥は悔しそうに視線をそらした。
「お前はお前を愛してくれる奴を見つけたらいい。お前は可愛らしい顔をしているんだから、きっとすぐに見つかるはずだよ」
三春がそう言うと、遥は涙を拭いながら早足で理科室を出て行った。
「あ、水島さん…」
「桜井、今は、ほっときなさい。そのうち、あの子も気付くよ。自分で努力もせずに、他人を妬んでいては人の気持ちは手に入らないからな。好きなら正面から向き合うべきだ」
「三春ちゃん、それなら私も同じだよ。悠斗の気持ちからずっと逃げてた…」
この場所で、初めて感じた胸の高鳴り。
私は悠斗に対し、とっくに特別な感情を抱いていた。
目眩を発症するかもしれないと分かっていても、食堂まで会いに行った。
悠斗がいない理由を聞き出したくて、先輩達に必死になった。
それ程、悠斗に会いたかった。
話がしたかった。
もう一度触れてもらいたいと思っていた。
それなのに___
私は悠斗の優しさに甘えて、自分の気持ちからも逃げ出した____
「桜井」と、三春は理央に向き合って、そっと言った。
「逃げてたって気付いたなら、次は追いかければいいんだよ。瀬戸ならいつも、お前を待っていてくれてるはずだから…」
