完璧御曹司の溺愛




 頭の中に浮かぶのは、悠斗の優しい面影。


 理央が悠斗と知り合って一緒に過ごした時間は、まだほんの僅かなのに、寝る時も、食事中も、授業中も、こんな緊迫した時だって、悠斗が頭から離れない


 それ程、理央にとっても、悠斗は大切な人となっていた。


 しっかりと床に足を付け、意気込んだ様子を崩さない理央に、遥はついに表情を改め「はぁ…」とため息をついた。


「まぁ、いいわ。今日はあんたにお願いがあって来たんだから、私も冷静にならなきゃね」


「お願い?」


「そう。あんたに、先輩を譲ってもらおうと思って」


「え?」


「まずは、先輩の連絡先を教えてよ?あんたと先輩は、別に付きあってるわけじゃないんでしょ?」


「そ、そうだけど…」


「じゃあ、私にもまだチャンスはある。先輩はね、誰からの誘いも受けないし、連絡先も教えない人で有名なの。でも、あれだけ気に入られてる、あんたなら知ってるんでしょ?」


 確かに、理央の携帯には悠斗の電話番号が入っている。


 昨夜かかってきたのは、悠斗の番号で間違いないはずだ。


「でも、そんな勝手に…」


「どうして?それくらいいいじゃない?あんたはどうせ、絵を描く事にしか興味がないんだし。もう気づいてると思うけど、私は先輩が好きなの。先輩が欲しいの。ファンクラブにいるような、その他大勢と一緒になりたくない。どうしても先輩に近づきたい!」


 遥は、頬をほんのりと染めながら、切実に理央を見つめ、訴えてくる。


 私にとって悠斗が大切であるのと同じように、彼女にとっても、悠斗は大切で、そして、恋い焦がれる存在なんだ。

 
 真剣に悠斗に恋をする、そんな遥の顔を、理央は綺麗だと思った。


 悠斗と一緒に並べば、額に入れて飾れそうな程、お似合いのカップルになるだろう。


 悠斗と遥が仲睦まじく愛し合っている姿が絵に浮かんだ。


 星の輝く夜、あのレストランのテラスで、悠斗が自分にそうしたように、遥を胸に抱くのだ。


 悠斗は、あの甘い声で遥に愛を囁き、その美しい髪に口づけを落とす。



 その時、自分は何をしているんだろう。


 何も知らずに、美術室で、絵を描いているだけなの?


 胸が焼けただれるような、張り裂けてしまうような、鋭い嫌悪感が理央を襲う。


 そんなのは嫌だと身体中が叫んでいた。