だ、誰なの?


 うろたえながら首だけで振り返ると、理央を抱きしめる男性の姿があった。


 一番に目に入ったのは、艶めく黒く美しい髪。


 けれどすぐに、美しいのは髪だけじゃないと気がつく。


 その顔立ちは、理央が今まで見たどんな人よりも端正だった。


 この学校の制服を着てなければ、童話の中に登場する王子様みたい。


 そんな、誰もが見惚れる程の笑みを、理央だけに向けている。


 理央は、この生徒を知らなかった。

  
 だから、裕太や遥の友達なのかと思ったけれど、二人は突然の彼の登場に、目を見開いて驚いていた。



 やがて、「瀬戸…先輩…?」と、遥が小さく呟いた。



 先輩?

 先輩って事は、年上なのかな?


 でも、こんな人、この学校にいた?

 

 瀬戸先輩は、理央に回した腕を緩めない。


 それどころか、「なかなか来ないと思ってたら…ごめんね」と、なぜか謝られる。


 けれど理央の方に、そのセリフを疑問に思う余裕はなかった。


 切れ長の美しい瞳に釘付けになると同時に、自分の胸がドクンドクンと高鳴っているのを感じる。


 何だろう、これは……。


 今まで誰と接していても、裕太といたときでさえも、こんなふうに感じる事はなかったのに…。