完璧御曹司の溺愛




 お昼休み、理央は一人で、屋上を訪れていた。

 屋上は、基本的には閉鎖されている場所だが、理央はたまにこっそりと立ち寄り、空を流れる気持ちいい風を感じに来る。

 今日は、梅雨空の隙間から太陽が顔を出し、体感的にもちょうどいい気温だった。


「はー、いい気持ち…」


 深呼吸をして、自宅がある方角へ視線を送る。


 悠斗、何してるのかな?

 二日酔い、少しは良くなってるといいけど。


 今朝、辛そうにしていた悠斗の顔を思い出す。


 昨夜はもっと早く、休ませてあげたら良かった。

 私が、無理させちゃってたのかも知れない。


 昨夜と朝の、悠斗との熱烈なキスを思い出してしまい、顔が赤くなってきてしまう。

 すごく恥ずかしいのに、悠斗に求められると嬉しくて、つい自分も求めてしまう。



「ここは生徒は立ち入り禁止のはずだが?」

  
 突然、声をかけられてドキリと心臓が鳴る。

 理央は、いつの間にか背後にいた人物に目を見張った。


「三春ちゃん!」


「よぅ。久しぶりだな」


 三春は、いつものように手を上げる。


 普段から親しいとは言っても、三春も教諭の一人。

 三春の白衣が風になびいているのを見て、理央は青ざめた。


「お願い、三春ちゃん。私がここにいる事は見なかった事に…」


「ま、いいだろう。私もたまにここへサボりにくるしな」


 あっさりと返されて、理央は面食らった。


「えっ、さ、サボりに?」


 三春は当たり前のように頷く。


「ここはいい風がふくから、サボるには最適な場所だ」


「三春ちゃん、たまに保健室にも職員室にもいないのは、ここに来てたからなんだ?」


 納得する理央に「内緒だぞ」と、三春は唇に人差し指を当てて見せる。


「そういえばお前、最近は保健室に来てないな。調子がいいのか?」


「うん、そうかも」


「そうか、見たところ顔色もいいみたいだし。これは瀬戸悠斗にたっぷり愛されてる証拠だな」


 三春は真顔で頷くから、理央は恥ずかしくなる。


「三春ちゃん、そんな事サラッと言わないで?」


「でも、幸せなのは本当だろ?」


「う、うん」


「良かったじゃないか。無事に気持ちを打ち明けて、うまくいって」


「三春ちゃんには色々と話を聞いてもらってたよね?あの時はありがとう」


 理央が悠斗へ気持ちを伝える事に決めたのは、三春が最初に理央の背中を押してくれたからだ。

 理央が笑顔を返すと、三春も微笑んでくれたが、その笑顔が少しだけ悲しそうに見えたのが気になった。


「三春ちゃん、どうしたの?何かあった?」


「いや、何でもないよ」


「嘘だよ。今、少しだけ切なそうな顔したでしょ?ねぇ、どうして?」