「ゆ、悠斗……」と、理央は悠斗の名を呼ぶ。


 すると、張り詰めたままだった緊迫感が悠斗から消えた。 


 悠斗は理央を見つめて、いつものようにニコリと微笑んだ。


 その笑顔に、周りから「キャア…!」と興奮と嘆きの声が漏れるも、理央を溺愛している悠斗の目には理央しかうつらない。


 けれど、理央の悠斗を気遣うような表情を目にした途端、その笑みも長続きはしなかった。


「理央…ごめん…」


「何で謝るの?悠斗は何も悪いことしてないよ。また、私を助けてくれたね」


「理央…」


「ありがとう、悠斗。嬉しかった」


 悠斗は、グッと理央の腕を掴むと、そのまま理央を連れて食堂を出た。


 教室とは逆方向へ連れて行かれる。


「悠斗?どこ行くの?」


 悠斗の広い背中は何も言わない。


 でも、理央の心に、不安も不満もなかった。


 悠斗の全てが自分の全て。


 悠斗の行くところが、自分の行くところだからだ。


 悠斗と一緒にいられるなら、この世界に怖いものなんて一つもない。



 悠斗に握られた手を見つめながら、理央の胸からは自然と幸せな気持ちが込み上がるのだった_____