記憶を求めて、触れた優しさ。

玄関の扉を開けると、隣の家から見覚えのある男の子が家から出てきた。

昨日、部屋にいた男の子だ。

「昨日はどうも」

そう言って食べかけのパンをくわえながら、履きかけのローファーを履く。

「やめろよ、そんな他人行儀な言い方」

他人行儀って、本当に分からないのだから仕方がないじゃない。

「あなた、本当に私の幼なじみなの?なんで私は分からないの」

「幼なじみだよ、保育園の頃からずっと一緒にいた」

「私は、なんにも覚えてないのに」

「学校まで一人で行けるのかよ、……そんな調子で」

「行けるに決まってるでしょ、付いてこないでよ」

「同じ学校なんだから一緒に行けばいいだろ」

なんで一緒になんか……。

「あなたのこと知らないのに?」

「いいから行くぞ」

そう言って目の前にいる男の子は、私の手を掴んで、引っ張って行った。

「ちょ、ちょっと離してよ!」

急に手を掴むなんて、この男は何考えてるの!?

「大人しくしてろ、俺の事分からないならまた覚えればいいだろ、古賀秀一、いいか?秀一って呼べばいいだけの話、忘れたなら覚えろ」

急に止まって、顔を近づけて指を指しながら、伝えてくる。

「なによ、そんな強引に覚えられるわけないでしょ、離して」