運動会。
それは運動音痴の私にとって、テストよりも嫌な学校行事だ。
私は運動会が行われる前日にてるてる坊主を10個も作り、逆さまにして窓辺に吊るし、ついでにネットで見つけた雨乞いのダンスを踊ってみた。
でも、そんな努力も虚しく、運動会当日はいっそ清々しいほどの快晴だった。
朝食を食べ終えて玄関の扉を開けると、リュックを背負った千聖くんと優夜くんが私を待っていた。
「おはよう、愛理ちゃん」
「おはよ。晴れたな。残念ながら雲一つない快晴だ」
私が切実に雨を願っていたことを知っている千聖くんは空を指さし、面白がるように笑っている。
「おはよう……うん。晴れたね」
「? 何だよ、ノリ悪いな。そんなに嫌なのか? それとも体調が悪い?」
からかうような笑みを浮かべていた千聖くんは、一転して心配そうな顔になった。
「いや、体調は悪くないし、いたって元気なんだけど……なんていうか。ちょっと気になる夢を見たんだよね」
「気になる夢? 何だよ、どんな夢?」
「誰かが怪我をしたりする夢でも見たの?」
優夜くんも心配そうに尋ねてきた。
「ううん、そうじゃなくて……私と千聖くんが手を繋いで走る夢。なんだよね」
夢の中で、千聖くんは私の手を引っ張って走りながら笑っていた。
それも、すごく楽しそうに。
あんなに楽しそうな顔されたら……ちょっと意識してしまう。
「多分、借りもの競争のときの夢なんじゃないかな。ほら、私、借りもの競争に出場するから、お題に合うのが千聖くんだったんだと思う」
「ふーん。そりゃ面白い」
千聖くんはにやっと笑った。
開会のことばから始まった運動会。
徒競走と低学年のリレーが終わり、次はいよいよ私が出場する借りもの競争だ。
時坂小学校の『借りもの競争』は『借り物』だったり『借り者』だったりする。
お題によって物だったり人だったりするのだ。
ハンカチ、ティッシュ、赤い鉢巻を巻いた男子生徒、青い鉢巻を巻いた女子生徒、腕時計、チョーク、黒板消し、バスケットボール。
借りやすい物――あるいは者――のお題を引いた生徒は喜び、反対に借りにくい物を引いてしまった生徒は渋面になりながら、応援席や校舎の方向に散って目的のものを探す。
いよいよ出番となり、私はスタートラインに立った。
同じスタートラインに立つ生徒は六人。
私の隣の男子生徒は軽く屈伸している。
いかにもやる気満々って感じだ。
引き締まった身体つきだし、私より遥かに足が速そう。
でも、借りもの競争は運動能力というより運の勝負だ。
いくら足が速くても、目的のものが遠くにあれば絶対に勝てない。
「愛理ー、頑張れー!」
「愛理ちゃーん!! ファイトー!!」
保護者席からお父さんと麻弥さんの声が飛んできて、私の顔は火が出そうなほどに熱くなった。
うう、応援してくれるのは嬉しいけど、恥ずかしいから止めてほしい。
前回の出場選手のほとんどがゴールしたところで、スターターピストルが掲げられた。
私は身構えた。
スターターピストルの音は苦手だ。
あの音、どうにかならないものかなあ。心臓に悪いんだけど。
それは運動音痴の私にとって、テストよりも嫌な学校行事だ。
私は運動会が行われる前日にてるてる坊主を10個も作り、逆さまにして窓辺に吊るし、ついでにネットで見つけた雨乞いのダンスを踊ってみた。
でも、そんな努力も虚しく、運動会当日はいっそ清々しいほどの快晴だった。
朝食を食べ終えて玄関の扉を開けると、リュックを背負った千聖くんと優夜くんが私を待っていた。
「おはよう、愛理ちゃん」
「おはよ。晴れたな。残念ながら雲一つない快晴だ」
私が切実に雨を願っていたことを知っている千聖くんは空を指さし、面白がるように笑っている。
「おはよう……うん。晴れたね」
「? 何だよ、ノリ悪いな。そんなに嫌なのか? それとも体調が悪い?」
からかうような笑みを浮かべていた千聖くんは、一転して心配そうな顔になった。
「いや、体調は悪くないし、いたって元気なんだけど……なんていうか。ちょっと気になる夢を見たんだよね」
「気になる夢? 何だよ、どんな夢?」
「誰かが怪我をしたりする夢でも見たの?」
優夜くんも心配そうに尋ねてきた。
「ううん、そうじゃなくて……私と千聖くんが手を繋いで走る夢。なんだよね」
夢の中で、千聖くんは私の手を引っ張って走りながら笑っていた。
それも、すごく楽しそうに。
あんなに楽しそうな顔されたら……ちょっと意識してしまう。
「多分、借りもの競争のときの夢なんじゃないかな。ほら、私、借りもの競争に出場するから、お題に合うのが千聖くんだったんだと思う」
「ふーん。そりゃ面白い」
千聖くんはにやっと笑った。
開会のことばから始まった運動会。
徒競走と低学年のリレーが終わり、次はいよいよ私が出場する借りもの競争だ。
時坂小学校の『借りもの競争』は『借り物』だったり『借り者』だったりする。
お題によって物だったり人だったりするのだ。
ハンカチ、ティッシュ、赤い鉢巻を巻いた男子生徒、青い鉢巻を巻いた女子生徒、腕時計、チョーク、黒板消し、バスケットボール。
借りやすい物――あるいは者――のお題を引いた生徒は喜び、反対に借りにくい物を引いてしまった生徒は渋面になりながら、応援席や校舎の方向に散って目的のものを探す。
いよいよ出番となり、私はスタートラインに立った。
同じスタートラインに立つ生徒は六人。
私の隣の男子生徒は軽く屈伸している。
いかにもやる気満々って感じだ。
引き締まった身体つきだし、私より遥かに足が速そう。
でも、借りもの競争は運動能力というより運の勝負だ。
いくら足が速くても、目的のものが遠くにあれば絶対に勝てない。
「愛理ー、頑張れー!」
「愛理ちゃーん!! ファイトー!!」
保護者席からお父さんと麻弥さんの声が飛んできて、私の顔は火が出そうなほどに熱くなった。
うう、応援してくれるのは嬉しいけど、恥ずかしいから止めてほしい。
前回の出場選手のほとんどがゴールしたところで、スターターピストルが掲げられた。
私は身構えた。
スターターピストルの音は苦手だ。
あの音、どうにかならないものかなあ。心臓に悪いんだけど。