「……ふーん。二人は両想いなんだ?」
 春川さんが視界からいなくなった後、これまでずっと黙っていた優夜くんが初めて声を上げた。
 首を動かして隣を見れば、興味深そうにこちらを見上げている優夜くんと視線がぶつかった。

「あ。うん。実は。そうなんだ。といっても、今朝、両想いだったって知ったばっかりなんだけど。ね、千聖くん」
 なんだか気恥ずかしくて、私は千聖くんに会話のバトンをパスした。

「まあな」
 千聖くんも照れているらしく、頭を掻いている。

「そう。良かったよ、やっと二人がくっついてくれて。ずーっとこのままお兄ちゃんが告白しないつもりなら、ぼくが愛理ちゃんに告白しちゃおうかなって思ってたもん」

「は?」
「え?」
 私と千聖くんはぴたりと動きを止めて、爆弾発言をした優夜くんを見つめた。

「何、その顔。別に意外なことじゃないでしょ? 愛理ちゃんはいつもぼくのために一生懸命になってくれる。好きになるのは自然なことだと思うけど?」
 優夜くんは照れもせず、平然とそう言った。

 え? え?
 優夜くんが私のことを好き?
 いや、まさか、そんなわけ――グルグルと思考が回って、頭の中は真っ白。

「というわけで、お兄ちゃん、頑張ってね? ぼくに愛理ちゃんを取られないように」
 私が驚いて固まっている間に、優夜くんは千聖くんを見た。
 どこか、悪戯っぽい、小悪魔みたいな顔で。

「と、取られるって――上等だ! 実の弟だろうと、愛理は渡さないからな!!」
 危機感を覚えたらしく、千聖くんは私を抱きしめた。
 予想外の行動に心拍数が跳ね上がり、顔の温度が急上昇していく。

「その意気その意気。隙を見せたり、愛理ちゃんを泣かせたりしたらダメだよ? 本当にぼくが取っちゃうから」
 優夜くんは笑っている。
 どこまで本気かわからない笑顔だった。

「そうそう、一応言っとくけど。いくら両想いだからって、家でいちゃつくのは止めてね。せっかくお母さんたちが仲良く暮らしてるのに、お兄ちゃんたちのせいで二人が気まずくなって別れた、なんてことになったら恨むよ?」
「わかってるよ! それくらいわきまえてる!」
「どうかなあ? 白昼堂々、こんな人通りの多い通学路で愛理ちゃんを抱きしめてるようじゃ、言葉に説得力がないよ」
 優夜くんに諭されて、千聖くんは私から手を離した。
 解放されたものの、私の心臓はまだ大騒ぎしている。

「じゃあ行こうか、愛理ちゃん。遅刻しちゃうし」
 優夜くんは指で眼鏡を押し上げて笑い、まるでエスコートするように私の左手を掴んで歩き出した。

「おい! なんで手を繋ぐんだよ!?」
「いいじゃない、甘えても。年下の特権だよ。ねえ愛理ちゃん、嫌じゃないよね? これまで何回もぼくの頭を撫でてくれたし、抱きしめてくれたことだってあるもんねー」
 優夜くんは私の腕にぴったりと寄り添い、頭をくっつけた。
 そして、千聖くんを見てふふんと笑う。得意げに、勝ち誇るかのように。

「なんだそれ!? たった一歳しか違わないくせにそんな特権あるか、愛理にくっつくな! 愛理が好きなのはおれなんだ!!」
 千聖くんが怒声を上げ、左手で私の右手を掴む。

「なあ、愛理はおれのことが好きなんだよな!?」
「ぼくのことだって好きだよねえ、愛理ちゃん?」

 左右から、誰もが羨む美形兄弟が言ってくる。

「ええと……」
 大好きな二人から同時に見つめられて、私は困ってしまった。

 どうしよう。
 千聖くんは異性として好きだし、優夜くんは幼馴染として好き。

 つまり、どっちも好き、って言ったら……千聖くんは怒るかな?

《END.》