1ヶ月限定猫生活?!

「お主の願いをを一つ叶えてやろう」


それは、突然の出来事だった。

新緑の5月。いつもの通学路。


「何をぼーっとしておる。願いを早く言わんか」



「待ってください!!!あの、貴方何者?!」



「わしは神じゃと何度も言っておろう。いい加減願いを言わねば他の者のところへ行ってしまうぞ」


私はさっきから、このどう見ても怪しいロリババァ…ううん、小学生に付きまとわれている。

赤いサロペットスカートに黄色い通学帽。三つ編みされたお下げ髪…

どう見たって小学生。自称神。まぁ、イキりたい年代でもあるよね。

同情の念を浮かべつつも、苦笑いを浮かべる。


「私、学校遅刻しちゃうから!!お姉ちゃん忙しいの!じゃあね!」


急いでその場から立ち去ろうとすると、「馬鹿にするな、人間め!」と叫び声が聞こえる。

その瞬間、びゅうううっと強風が吹き荒れスカートが捲れる。


「え、ええ、ちょっと!!」



「どうだ、思い知ったか人間!」



「分かったよ、分かったから止めて!」



「分かれば良い」


そう言って、眼の前の自称神はにやっと笑い、風を止ませる。


「んじゃあ聞くけどさ、それはその…願いを叶えるってやつは法律的には大丈夫なの…?」



「なんじゃお主、そんなことをまだ気にしておるのか。わしは神だからの。法律など超越した存在じゃ」



「というと…?」




「大粒のダイヤを盗むんでも、人殺しでも、アヤシイオクスリの調達でもなんでもできるのじゃ」


神様は自慢げにどや、と胸を張る。

いや、どや、じゃないのよ。



「全部犯罪じゃんかよ!!」



「だから法律など関係ないと言っておろう」



「そんな半分ヤクザ紛いの神誰が信用できるか!!!」


いい具合に、自称神の天然ボケ(?)とツッコミが噛み合っている気がする。

いや、今はそんな場合じゃなくて。


「まぁまぁ、今のはほんの一例じゃ。例えば美少女の下着が欲しいとか、ちょっとえっちぃ薄い本が欲しいとかでも…」



「それ全部神様の欲求じゃん、この変態小学生!!」


バチコーン!!とかなりの強度の平手打ちを食らわす。

ホントなんなのコイツ。

てか思考が男子中学生じゃん。可愛い見た目してホンっと可愛くないんだから。


「お主、神に平手打ちとは中々良い度胸ではないか」



「あったりまえよ。真面目に願いを叶えてくれないなら私もう学校行くから」



「ちょいと待たれい。まだ、お主は自分の願いを言っとらん」



「どーせ言ってもまともに叶えてくれないでしょこのインチキ小学生」


あ〜、ちょっと言い過ぎたかも。

段々自称神の目が潤んでくる。


「…うぅ、わしはただ、通りすがりの薄幸な少女を救ってやりたいと思っただけなのに…」


自称神は、小学生の見た目なことを良いことに鳴き真似をする。

眼の前の自称神に弄ばれ、流石に苛立ってきていたとしてもこの泣き顔には屈さざるを得ない…

薄幸って言葉に多少なりともムカつくけど。願い叶えてって頼んだわけじゃないけど。


「分かったよ。言えば良いんでしょ言えば。私はね…学校の先生に恋してるの。でもその先生めっちゃ人気でさ、毎日生徒に囲まれてて中々話しかけに行けないんだよね。私も勇気出せなくってさ〜。願うとすれば、先生との距離を縮めたいってとこかな」


そうやって願いを伝えてみれば、案外ちゃんとふむふむと頷きながらメモを取る自称神。


「お主とその「先生」とやらに共通点はあるのか?」



「うーん、まぁ、強いて言うなら”猫好き”ってところかな…」


後から考えれば、この発言が悪かった。

このせいで、1ヶ月間私は人間としての生活を奪われるのだから…


「ふむ。それでは願いを叶えてやろう」


この時私はただ、良くて猫をハプニングで学校に迷い込ませて、先生との接点を作ってくれるのかな〜くらいにしか考えていなかった。

ただ、この考えは次の瞬間打ち砕かれる。


「お主を猫にしてやる」



「はぁ?!ちょっと待ってよ、そんなのアリ?!」


自分でも一生、こんな大声を出すことは無かったと思う。


「お主が猫になればその先生とやらはお主を愛でるはずじゃろ?何も困ることはあるまい」



「待って待って、困ることだらけだから〜!!」



そんな私にはお構いなく、「えいっ★」と神様が指パッチンをする。

途端に視線がどんどん下に落ちていく。地面が近くなっていく。


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


あまりの怖さに目を瞑る。

目を開ければ、視点が低くて思わずふらついてしまった。

信じられない。私、本当に猫に…


「ほれ、完了したぞ。お主は完全に猫になった」



「んにゃ?!にゃ、んにゃにゃぁぁぁ!!!」
(何が起きたの?!しゃ、喋れないぃぃぃ!!!)


口を開いても、喋れるのは「にゃぁ」という言葉ばかり。



「ほれ、綺麗な毛並み。艶々のしっぽ…美しい白猫じゃのぉ。おまけに目はオッドアイと来た。初めて(・・・)の仕事は中々上出来じゃ」


自称神はうっとりと私を見つめる。容姿を褒められるのに悪い気はしない。何なら綺麗な見た目にしてくれただけでも有り難い。

でも、聞き捨てならない言葉があった気がする。



「にゃ?!にゃにゃにゃにゃにゃ〜にゃ、にゃーにゃ!!」
(は〜?!初仕事だったって言うの?!じゃあ私は実験台ってこと?!)



「ま〜そういうことになるな。わしも人間界での仕事は初めてでのぉ」



「にゃん・・・んにゃああ!!にゃぁ、にゃにゃにゃ、にゃーにゃにゃ〜!!!」
(ハァ?!最悪!!てか、言葉通じてるなら早く戻してよ!!)



「まぁ、しっかり願いは叶えてやったじゃろ?それに…わしにも詳しい戻し方は分からぬ。まぁ、一ヶ月くらいはこの調子じゃな。いつ戻るかはわしにも見当がつかん」


このクソ小学生じゃない…詐欺師じゃない、あぁ、自称神だっけ。

このまま一生戻らなかったらどうしてくれるのよ、と思いながら自称神を睨みつける。

いや、先生との距離は縮めたかった。それは認める。でも、猫になりたいなんて一言も言ってない。


「そんじゃ、精々猫生活を楽しむんじゃ。じゃぁの!」



「にゃにゃにゃにゃ!!!ふしゃぁぁぁ!!!」
(ふざけんな!!!この自称詐欺師〜!!)


爪を出して襲いかかろうとする私を躱しながら、神はそそくさと居なくなってしまった。

どうしろって言うの。

これって悪い夢だったりする?

そう思いながら馴れない体で頬を触る。

もふもふのつやつやの毛。

間違いなく猫だった。

水たまりに写った私の姿はどこをどう見ても猫。

ため息をついた私は僅かな望みを持って学校へと向かうことにした。

こうして、波乱万丈な猫生活が幕を開けたのである…