タカノリは、今、東京駅にいる。

 これから、東海道新幹線のぞみ号に乗って、関西へ行こうと考えている。そして、関西で、たこ焼きを食べ、ユニバーサルスタジオへ行き、可愛い関西弁の女の子と遊ぼうとほくそ笑む感じだった。

 昨日は、ユウナと喧嘩した。

 今日は、ユウナとLINEでやり取りをしていない。

 これから、東海道新幹線のぞみ号で、関西、京都や大阪へ行こうと考えている。今日は、ユウナに黙って、会社の仕事も休み、そのまま、現実逃避をしようと考えた。

 朝9時。

 のぞみ号新大阪行きが、発車した。 

 いつもの東京のオフィス。有楽町、新橋、浜松町、品川と大きなビルをしり目に、これから、タカノリは、関西へ羽を伸ばそうとした。

 ただ、少しだけ、思ったのは、ユウナだって、関西人なのだ。

 元々、ユウナは、大阪市住之江区が、地元で、両親は、機械メーカーを立ち上げている。ユウナは、少しだけ、AKB48の柏木由紀に顔が似ていた。そもそも、どうして新幹線で、関西に向かっているのか、まだ、分かっていなかった。

 タカノリは、よく、ユウナが、関西弁で話をしているのを、「可愛い」と思っただけではなく、時々、できない仕事を、フォローしてくれる優しさもあった。実は、タカノリは、もう、40代後半。ユウナは、まだ30歳だった。

 タカノリは、若いころ、シナリオライターになりたいと思って、頑張っていたが、駄目だった。専門学校で「才能がない」と言われて、夢をあきらめて、今の食品メーカーで仕事をしている。

 ユウナは、大学生の時、司書の資格を取ったが、公立図書館で、腰を痛め、退職し、今の食品メーカーで仕事をしている。

 時々、ユウナは、そんなシナリオライターになりたかったタカノリに、十返舎一九『東海道中膝栗毛』の話をしたり、今は、2024年だから、NHK大河ドラマ『光る君へ』が、放映されているから、一緒に、『源氏物語』のマンガを読んでいた。

 新幹線が、新横浜駅を過ぎた時、タカノリは、前に座っている客が、気になった。そして、後ろ姿を見たら、ユウナに見えた。

 まさか、ドキドキしながら、だけど、人違いだったら、どうしよう?と思って声を掛けようとした。

ーもしもし、ユウ…

 と言ったとき、タカノリは、急に眠気が出て、寝てしまった。

 …

ー下にぃ 下にぃ

 あれ?今、新幹線で、新横浜駅を過ぎたんだけどなぁ。東急電車と相鉄が、つながっているけど。周りの光景が変だと思った。

 そして、タカノリは、籠の中にいる。

 随分、重たい着物を着ている。

 変だ、おかしい、と思った。まさか、今は、江戸時代なんだろうか?

「おい」

「どうなさいました?タカノリ様」

「これは、どういうことじゃ?」

「は、只今、これから、タカノリ様が、京の娘と遊びたいから言うて、今、東海道を、江戸日本橋から進んでおりまする」

 周りを見た。

 確かに、テレビドラマのセットしか思えない農村がある。そして、みんな、黒く焼けた肌に、「ははあ」と土下座をしている。

「ここは、どこじゃ」

「は、浜松でございます」

 と家来は言った。

 浜松と聞いて、タカノリは、「ウナギ」と思った。

 それで

「ウナギを食べたい」

「駄目です。タカノリ様。今日は、あそこの宿で、ご飯を食べると決まっておるので」

 新幹線なら、浜名湖は、もっと違うように感じたが、そうではない。いや、困った。

 家来の視線が厳しい。

「分かった、そうする」

 と言ってタカノリは、家来と一緒に宿へ行き、ご飯を食べた。何故だか、粗食のように感じた。しかし、中性脂肪やらコレステロール値が高いタカノリは、健康に良い食事と思った。

「タカノリ様。明日は、雨ですので、明日も、ここで泊まらないといけないです」

 と言った。

 ユウナと、十返舎一九『東海道中膝栗毛』を読んで思った。そうだ、川が水が多くなると、宿で寝ていたと、小説の内容を思い出した。

 せめて、新幹線を乗る前に、一呼吸置けば良かったと悔やんだ。

 こんなの夢であってほしい。

 そう思った。

 …

「まもなく、新大阪。新大阪でございます。本日も、新幹線をご乗車して頂きありがとうございました」

 とアナウンスが、流れた。

 ユウナに似ていた前の席の女性はいない。

 カタンカタンとのぞみ号は、新大阪駅に入った。

 新大阪に着いたタカノリは、自分の愚かさに気が付き、ユウナにLINEで、正直に言って、怒られたらしい。そして、タカノリは、住之江のユウナの実家へ行って、ユウナと将来の約束をしたようだった。<完>