「大和。俺は花鈴ちゃんに着きそう。大和はどうする?」



「俺は、とりあえず今日の事件を詳しくまとめてみる。」


「分かった。それなら、仮眠室使えよ。無理して体は壊すなよ。」



「あぁ。ありがとう。奏多。」



「それじゃあ、また後で。」



大和と分かれてから、俺はまっすぐ花鈴ちゃんの部屋へ向かった。



彼女の部屋へ入ると、さっきまで横になっていた彼女がいなくなっていた。



予想出来なかった光景に、思考が止まり冷静さを失っていた。



あんな状態で外になんか出たら…



それより、部屋の前に警察官が2人もいてどうして彼女を止められなかったのか…



いや、今はそんなことよりも彼女を探そう。



「那月!さっき運ばれてきた花鈴ちゃん見なかった?」


「えっ?見てないけど。まさか!」


那月は、俺の2つ上の姉であり俺と同じ医者の1人。


「まったく!警察官は何やってるのよ!あんな状態で病院でも飛び出したらどうするのよ!」



俺は那月と一緒に花鈴ちゃんを探し回った。



離棟している可能性も考え、他の病棟にも連絡を取った。



全ての病室、病棟、トイレを探しても彼女はいなかった。



最後の可能性を考え、屋上へと向かった。



この病院の屋上は、誰でも簡単に出入りが出来てしまう。



その事で以前、問題にもなっていたくらいだった…



「花鈴ちゃん!」



「花鈴ちゃん!何してるの!」



俺の言葉にも姉の言葉にも花鈴ちゃんは反応しなかった。



もしかして…



俺は、彼女の視界に入った。



花鈴ちゃんは、俺と那月の存在に気づき逃げ出そうとした所を急いで手首を掴んだ。



手首を掴んだ瞬間、彼女の手が震えていることに気づいた。



「やっぱり…。言葉を話さなかったのはそういうことだったのか。」


生まれつきなものなのか、ストレスが原因の突発性難聴なのか分からないが、彼女は何も聞こえていなかった。



「だから、私達の言葉に反応できなかったのね…」



もう少し、注意深く彼女を観察する必要があった。