「ハァ……」

何度目かわからないため息を暖は吐く。ため息と共に嫌な想像がまた一つ浮かんだ。暖と同じバドミントン部の想いを寄せている先輩が、校庭の隅にある満開の桜の木の下で知らない男と見つめ合っている光景だ。

先輩の艶やかな黒髪が春風に揺れ、白い陶器のような頰が赤く染まり、黒縁眼鏡の奥に隠された瞳は男を熱を籠めながら見上げている。そして二人はゆっくりと近付き、唇が触れようとしてーーー。

「少年、さっきから何をため息を吐いてるんだい?」

声をかけられ、最悪な妄想の中にいた暖の肩が跳ねる。驚きで心臓が早まる中、暖は振り返った。そこにあったのは、艶やかな腰ほどまである黒髪を持った美しい少女だった。一学年しか違わないというのに、少女は大人の女性が持つような妖艶さを秘めている。その暴力的な美しさにときめいてしまうのは、暖だけではないだろう。

「先輩、驚かせないでくださいよ!」

「君が黄昏ているから心配になってね〜」