「蘭?なんか元気ないな」

「そんなこと、ないんだけど」

「どうかしたか?」

「別に、何も」

「もしかして…、寂しいって思ってる?」

思わず私は顔を上げる。
尊はなぜだか嬉しそうに笑った。

「な、なんでそんなに嬉しそうなの?」

「ん?蘭が俺のこと寂しがってくれてるから」

「違うもん!」

「そうか?」

「そうだもん!私だって、夏休みは部活で忙しいんだからね!尊のこと思い出す暇もないくらい、あっという間の毎日なんだから」

「そっか。なら、あっという間にまた蘭に会えるな」

「そう、あっという間だもん…」

なぜだか声がだんだん小さくなる。

「寂しくなったら、いつでも電話してこいよ?」

「寂しくならないから、大丈夫だもん」

「はー、意地っ張りだな」

「別に意地張ってないもん」

「蘭、知ってるか?お前の口癖」

「…なによ?」

「蘭が、ナントカだもんって言う時は、本音じゃない」

「はあ?そんなことないもん!」

「ほら、また」

そう言って尊は笑い出す。

言い返すのを諦めて口をつぐむと、代わりに涙がこみ上げてきて、慌てて顔をそむける。

すると尊は両腕を伸ばし、私をぎゅっと抱きしめた。

「蘭、お土産買ってくるから。楽しみに待ってて」

「うん」

素直に頷くと、尊は優しく私の髪をなでて、そっと額にキスをした。

(な、なに今の?おでこに、なんか、大事そうに、ふわっと…)

頭の中で小さな私が、アニメのキャラクターのようにアタフタと駆け回る。

「どうした?蘭。顔が赤いけど。照れてるの?」

「ち、違うもん!」

尊はまたおかしそうに、あはは!と笑う。

「もう、尊!」

「ごめんごめん、可愛くてつい」

(か、か、可愛い?そんな、なんで急に…)

またもや頭の中を、おチビな蘭がジタバタする。

尊は、なぜか余裕の表情でクスッと笑うと、私の顔を覗き込んだ。

「蘭、部活がんぱれよ。1度しかない15才の夏休み。大いに青春を楽しんでくれたまえ」

「なあに?その偉そうな口調は。尊こそ、大いに勉学に励みたまえ」

「ははっ!やっといつもの蘭に戻ったな」

私達は改めて向かい合う。

「じゃあな、蘭。ちょっと行ってくる」

「うん。気をつけてね、尊」

「ありがとう。蘭も元気で」

どちらからともなく、私達はもう一度抱きしめ合った。