「洞窟?なのか…」

コツンと足音が響く中を、二人で少しずつ奥へと進む。

だんだん真っ暗になり、水の音も遠ざかっていく。

「ちょっと待ってて」

尊はそう言って私の手を一度離すと、背負ったリュックから懐中電灯を取り出した。

スイッチを入れて先を照らすと、もう一度私の手を握って歩き出す。

「どこまで続いてるのかしら」

思わず呟くと、引き返す?と尊が聞いてくる。

私はすぐさま首を横に振った。

尊は何も言わずに私の手を握りながら、足元をライトで照らしてくれる。

やがてそれまで一本道だった先に岩の壁が現れた。

「行き止まり…か」

尊が呟き、ライトで辺りを照らす。

「特に変わったところもないか。ただの洞窟だったみたいだな」

その時、揺れるライトの中に、私はふと気になるものが目についた。

「尊、ちょっと懐中電灯貸して」

「ああ」

受け取ると、少し先の壁を照らして目を凝らす。

「なんだ?何かの絵?」

尊も一緒に覗き込んだ。

そこに書かれていたのは、どうやら着物姿の人物らしかった。

鮮明ではないが、髪の長い大人と、小さな子どもが二人。

「これって、昔に書かれたものかしら?」

「そうかもな。石か何かで彫ったみたいな感じがする」

「確かに」

誰が彫ったのだろう。
そしてどんな意味があるのだろう。

しばらく考えてみるが、答えは見つからない。

他にも何か手がかりはないかと辺りを探してみたが、特に見当たらなかった。

「蘭、とにかく一度ここを出よう」

「うん、分かった」

私は頷いて、尊と一緒に来た道を戻る。

けれど…

「えっ?!待って、どういうこと?」

一本道だったはずなのに、私達が戻った先は行き止まりだった。

「滝は?どこへ行ったの?」

「落ち着いて、蘭。もう一度、さっきの絵があった方へ行ってみよう」

だが、その先もやはり行き止まり。
つまり、前も後ろも出口はない。

私と尊は、なす術もなく立ち尽くしていた。