「ほら?君の机でしょ?ぼーっとしてないで、一緒に拭いて。」
聞き覚えのあるセリフ。目の前にはあの冷たくなってたはずの彼女がいた。僕は大粒の涙があふれ出した。
「え、大丈夫!?」
僕は涙を拭き取りハンカチを受け取る。
「大丈夫。ありがとう。」
どういう事かわからないが、僕はいわゆるタイムトラベルをしたらしい。理由はわからないが僕はまたやり直すチャンスをもらったのだ。もう彼女のあんな姿を見たくない。僕はあの未来を変える決心をした。
彼女の行動はあの未来となんら変わりもなく、毎日毎日僕に話しかけにきた。前回はうざったらしくてわざと素っ気ない態度を取っていたが、今はそんなことない。むしろ、嬉しいくらいだ。
「ねぇ!葵。ちゃんと聞いてる?ぼーっとしてたでしょ?」
「あ、ごめん!少し考え事。」
慌てて返事を返す。
「ならいいけどさー。でね、うちの猫がね…!」
どうやら彼女は猫を飼っているらしい。名前はみあ。
どうやら、黒猫で尻尾が途中で曲がっているかぎしっぽでとても特徴的らしい。彼女は猫が本当に好きらしい。ハンカチに猫の刺繍が入っているのも納得だ。彼女が猫について語る姿はとても楽しそうで、愛おしかった。
ある日、僕は美化委員会の活動で花の水やりをしなければならなかった。花壇は校舎裏にあり、だいぶ細まった道の先にある。少々面倒くさいが水やりを忘れて先生に怒られるほうが面倒くさい。僕はジョウロに並々水を注いで花壇に向かった。
花壇に向かうと何やら騒がしかった。うちの学校の制服を着た男3人が女の子1人を囲んで暴力を振っていた。僕にはそれを止める勇気なんてなくて、すぐさま隠れることしかできなかった。しばらくして、男3人が過ぎ去り女の子が座り込んで泣いていた。僕は慌てて近づきハンカチを渡した。
「大丈夫?」
彼女は無言でハンカチを受け取ると、泣きながら喋り出した。
「大丈夫…。いつものことだから…。」
全然大丈夫そうに見えない。とりあえず傷の処置のために、保健室に連れて行くことにした。保健室のドアを開けると先生が不在だったので、教科書で見た処置の仕方をやってみる。自信はなかったが上出来だった。
「なんで優しくしてくれるの?」
彼女は言った。僕は
「前に優しさをもらったから。」
実際光に会って僕は変わった。一度目の人生も、今も彼女は変わらず僕に優しく、暖かく接してくれる。そんな中で僕もあの捻くれてた自分を見直し変えることができたのだ。
「けど、私君に酷いことしたじゃん。」
「え?」
「あの机の落書き。私がしたの。」
衝撃だった。僕はこの子の名前も知らない。何の接点もない。なぜ、僕にあんなことを?