「う、ヒック…ヒック…」
暗闇の中、私そっくりの妹の泣き声だけがあたりに響く。
「なん、で。お母さん。お父さん…」
「…」
(あいつらは、絶対許さない。)
そばで泣いている妹の背中をゆっくり撫でながら、私はひっそりと決意した。
(あいつらは、私が殺す。)
        〜〜……〜〜
すずとかずとは依頼が終わり、家に帰るところだった。
「やっぱ、依頼の後は疲れるわ。いくらなれても疲れは残るな。」
「じゃあまだ足りないんだよ。」
「明日はなんもなかったよね?」
「そうだね。他の依頼で10人以上いったところがなかったらないね。」
すずとかずとは、殺し屋をやっている。
元はすず一人だったが、5年前かずとが殺しをやりたいと言ってから二人になった。
はじめは、うまくいかないことばかりだったが5年間いつも一緒にいる二人は殺し屋会の中でも(二人の知らないところで)有名だった。
「帰ったらちゃんとシャワー浴びてよね。この前帰ってすぐ寝たんだから。血がついたやつ洗うの大変なんだかな。」
以前、3日連続の依頼を片付けた後、シャワーを浴びないまま血がついた服でソファーで寝てしまったかずとはソファーを血だらけにしてすずに怒られていた。
「あれは仕方ねぇだろ!3日連続だよ?死ぬって!」
「やっぱ体力足りてないじゃん。もっとキツくする?」
「それは無理!この前キツくしてまだなれてないんだから!」
会話をしながら家までの道を歩く。
「たっだいまー」
「ただいま」
山の上に建てられている大きな二階建ての家。すずが殺しの仕事でもらったお金で建て、今二人で暮らしている家。
返事は帰ってこないが「行ってきます」と「ただいま」は必ず言う約束だった。
「シャワーシャワー!」
着替えの服を持ち、シャワー室へ向かうかずと。
「ご飯作ってるから、ちゃんと流してよ。結構血の匂い残るから。」
「わかったお母さん!」
手を上げてふざけた返事をするかずと。少し呆れた顔をしながらも笑うすず。二人は今の生活を気に入っていた。
コンコンコン
玄関のドアが叩かれた。
「ん?お客さん?珍しい」
不思議な顔をしてシャワー室から顔を出すかずと。
「誰だろ。」
すずは玄関に向かう。
「どうしま、」
返事をしながらドアを開けると少女が立っていた。
「ここは、『白さん』と『黒さん』のお宅ですか?」
白と黒。
すずとかずとのコードネーム。
それぞれ苗字の上の文字をとった名前。
すずの目が鋭くなった。
「君は、誰?」
「先に質問をしたのは私です。先に私の質問に答えるべきだと思いますが。」
その時、シャワー室の扉が開いた。
「どーしたの?お客さん?」
「黒。」
殺しの場で呼ばれるはずの名前で呼ばれ、かずとも察した。
空気がピリつく。
『とりあえず、上がってもらえば?ここで話すのはちょっと。』
『上げていいと思う?』
『見た感じ大丈だと思うよ。』
「…?」
白と黒は目だけで会話をしていたのでその間少女は首を傾げていた。
「とりあえず、上がれば。家汚したら許さないから。」
白は振り返り家の奥へ入って行く。
「お邪魔します。」
丁寧に礼をして靴を揃えてから家に上がる少女。
「それで?君は誰?」
白は少女の向かいの席に腰を下ろした。
少女を見つめる白の目は冷たかった。
「まぁまぁ。そんな怖い顔しないの白。ま、家汚したら俺も許さないけど。」
ニコニコしながらお茶を持ってきた黒の目も笑っていなかった。
「単刀直入に言います。私にも、殺しを教えてください。」
目を見開く二人。
次の瞬間二人同時に吹き出した。
「そういうことか!なるほどね。あはは!」
「やめ、ろ。黒。笑うな。ククク…」
お腹を抱えて笑う黒。目頭を押さえて笑いを堪えようとする白。
少女はキョトンとした顔をした。
「うん。分かった。君の言いたいこと。理由、聞いても?」
一通り笑った後、真剣な顔になって少女と向き合う。
「私の両親は、どこかのグループによって殺されました。私はそのグループを特定してどうにかして殺そうとしましたが私にそのスキルはない。そこで耳にしたのは白さんと黒さんの存在でした。白さんたちの話は3年前に聞きましたが、どこに住んでいるのは不明。特定するために3年もかかりました。お願いです。私に殺しを教えてください。」
「なるほどね。復讐、か。半端な気持ちじゃないよね?」
「もちろんです。あいつらに復習できるのなら、私の命はどうでもいいです。」
「一つ訂正をしよう。命はどうでもいいものじゃない。確かに、俺らの仕事は命を扱うものだけど、適当にあいつらを殺そう、っていう気持ちはないから。」
「はい。ごめんなさい。」
「話が早くて助かるよ。」
「白、この子の殺し、了承するの早くない?俺の時何回もやめさせようとしたじゃん。」
「こう言う人に何言っても無駄ってどこかの誰かさんで学習したから。」
さっきまでピリついていた空気が柔らかくなった。
「それで、いつから来る?」
「できれば早めの方がいいです。」
「なら今日からね。」
「え、」
「いや?」
「あ、いえ。急すぎてびっくりしました。お願いします。」
「白の練習キッツイよ。まじで死ぬから。」
ニヤニヤしながら少女に近づいていく。
「キツくないから。黒がしょぼかっただけでしょ。」
会話をしながら特訓の準備をする二人。
何もすることが無くなった少女は家の中を観察し始めた。
普通の家。殺し屋だからもっと恐ろしい家かと思っていた少女は驚いていた。
「普通の家でしょ?」
いつの間にか黒が背後に立っていた。
「は、はい。あの、殺しをやっているのでもっと恐ろしいのかと…」
「そうだよねー俺もそうだった。」
懐かしそうに微笑む黒。
「俺も?初めから一緒では無かったのですか?」
首を傾げながら尋ねる。
「うん。俺も君と一緒。俺の場合、偶然殺しやってた白に会ってそこからだけど。」
「だから『何回もやめさせようとした』なんですね。もしかして、笑った時も?」
「そう!多分白も俺も同じ理由で笑った!俺に似てるなって!」
フフ、と少女は静かに笑う。
「やっと笑った。」
「え?」
驚いたように黒の顔を見る。
「ここに来てから当たり前かもだけど怖い顔してたから。」
「怖い顔って。」
「名前は?」
「あ、青薔薇咲です」
「いい名前じゃん。」
顔が赤くなる。
「おい、黒。何喋ってんだよ。手伝え。」
「はーい。お母さん。」
振り返って白の元に戻る黒。
「あ、あの」
戻ろうとした黒の背中に声をかけた。
「ありがとうございます。」
「何でありがとうか分からないけど、どういたしまして!」
ニコッと笑い戻って行った。

「ま、待って、ください。あの、待って…」
肩で息をしながら汗を流す咲。
「あはは!あの頃思い出すね!」
楽しそうに走り回りながら白と銃を迎え合わせる黒。
咲に合わせ、特訓内容を黒の初めのメニューに戻したが、やはり初めはきついらしく咲はバテてしまった。
(なんであの人たちあんなに走れるの?!)
黒が休憩させてあげようと提案してくれたお陰で、今は隅の方で休んでいた。
その間も白と黒は殺し合っていた。
(でも、黒さんも初めは体力がなかったって。私みたいな状態から今になってるってこと?)
その後、一通り特訓が終わった3人は白の家に帰った。
「シャワー浴びてきていいよ。流石にそのままじゃ気持ち悪いでしょ?」
「ありがとうございます。それではお借りします。」
リビングを出た咲。
「あ、」
声を上げたかずと。
「シャワー室、どこにあるか分かるかな?」
「あ、」
それから数分後、咲はシャワー室はどこか聞きにきた。

咲がシャワーを浴びている間にすずはご飯を作っていた。
「今日何作ってんのー?」
すずの手元を覗き込みながら聞くかずと。
「んーうん」
「うんじゃなくて!」
そこでシャワーを浴び終わった咲がリビングに来た。
「シャワーありがとうございました。」
まだわずかに水の滴る髪の毛。
「髪の毛乾かさなきゃね。長いと大変だよねー着いてきて。」
そう言ってシャワー室の道とは別の廊下に歩いて行った。

「はい、ドライヤー。これ結構乾くの早いんだよ。」
はい、と咲にドライヤーを渡すかずと。
「ありがとうございます。色々と。突然来たにも関わらず親切にしてもらって。」
「そんなかしこまらないでよ。一緒に特訓した仲じゃん。」
ニコッとしながら笑いかける。
咲も思わず微笑む。
「あの、聞いていいのかわからないんですけど、」
「かしこまらない。」
「あ、き、聞いていいのか分からないけど、なんで白さんも黒さんも殺しを始めたの?」
目をパチクリさせるかずと。
「あ、名前言ってなかったのか。ごめんね、俺たちは聞いたのに言ってなくて。俺はかずと。黒井かずと。で、白は白井すず。最初はスパイか何かだと思ったからコードネームで呼んでたからね。ごめんね」 
「かずとさんとすずさん。」
咲が呟く。
「さん付けなくていいよ」
「いえ、さんはつけさせてください。」
「どうしてもって言うなら否定はしないけど…」
口を尖らせながら言う。
「それで、なんで殺しを始めようと思ったの?」
ふふ、と笑う。
「聞きたい?」
「うん」
すずの話はすずから聞いたほうがいいと提案したらそうすると言って、かずとの話を先に聞くことにした。
終始、咲は静かに話を聞いていた。
時々、服の裾を握りながら。
話が終わった頃には目にたくさんの涙が浮かんでいた。
「なんで泣いてんだよ。」
そばにあったハンカチを渡し、笑いながら言う。
「だ、だって。みんなひどすぎるから、なんでそんな酷いことができるの?私にはわからないよ…」
「うーん。そうだねー」
頭をゆっくり撫でながら上を向くかずと。
「俺にもわからないよ。殺しをやっている今も、きっとこれから先も。だから、昔のことはもういいんだ。昔のことはすずと会ってからたくさん泣いたから。だから今は、前だけ向いていくって決めたんだ。」
そう言っているかずとの目はまっすぐ前を見ていた。
その時扉が開いた。
「ご飯できた…」
動きが止まるすず。
泣いている咲。その泣いている咲の頭の上に手を置いているかずと。
静かにスマホを取り出す。
「いや、いや違うからね!すず!俺が泣かしたわけじゃ、いや、俺が泣かしたかもだけど!」
慌てて否定するかずと。
「すずさん、違うんです。かずとさんのせいじゃないです。私が弱いのが悪いんです。」
鼻を啜りながら咲が言う。
「脅されてるから正直に言っていいんだよ。悪いのはかずとなんだから。」
「本当に違うんです。」 
まだ疑いながらも頷くすず。
「ご飯、できた。」

リビングへ行ってすずの作ったご飯を食べる。
「僕が殺しを始めた理由?」
食べている途中で思い出したのか咲はすずに聞いた。
ご飯が作り終わる前までかずとの話を聞いてたことも話した。
「面白くないよ?」
「はい。それでも、気になって。」
「…いいよ。話してあげる。ご飯が終わった後でいい?」
「もちろんです。」
ご飯が食べ終わるまでは、この後咲はどうするのか話し合った。
「殺したい奴を殺せたら、咲はどうするの?」
「それは…」
下を向いて黙り込む咲。
殺しを終わった後のことを考えていなかったのか、しばらくの間沈黙が続いた。
「殺しの世界はね、」
このままでは話が進まないと思ったのか、かずとが声を発した。
「殺しの世界は、世間的にも認められてないんだ。どこで事故が起きて、周りに知られるかが分からない。周りに気づかれたら、警察に追われるかもしれない。そうしたら俺らの人生は終わり。今までは上手く隠せてたから俺もすずもいるけど、ここもいつ無くなってもおかしくないんだ。だからきちんと考えなくちゃいけない。」
そこだけ一旦話を切ってすずの方を向く。
「だから、すぐ決めなくていいんじゃないかな。」
前半は咲に、後半はすずに言った言葉だった。
「はぁ…本当かずとは甘すぎ。そんなんじゃかずとも殺される。」
「それでも、俺らより咲はまだ幼い。考えもすぐまとまるわけないだろ?」
「殺しの世界は、大人子供関係ない。舐めてるやつから、決まらないやつから殺されてく。」
「それは分かってるけど…」
「分かってないから言ってんだろ‼︎」
かずとと咲の肩がビクついた。
「俺らより咲のが幼い?わかってんだよそんなこと。考えがまとまらないのもよく分かってる。だからこそ俺は今ここで決めろと言ってるんだ。咲は本物の殺し合いを見たことがあるか?命をかけている争いを見たことがあるか?かずとの時は運が良かった。最初から殺し合いを見せられたからよかった。だからお前だって決めることが出来ただろう?でも今は違う。本物の殺し合いをまだ知らない。すぐ決められないのはまだ迷いがあるからだ。迷ってるやつは殺される。そんなやつにこれ以上殺しを教えても危ないだけだ。だったら俺らが殺したほうが咲も、咲の家族も、危険にさらされずにすむ。なんでそれがわからないんだよ。」
一気に話したすずは、水を一口飲んだ。
「殺しは、甘い世界じゃないんだ。」
そう言ってすずは自分の部屋に帰ってしまった。
かずとも咲も何も言えなかった。
全てが正しかった。
全てが、咲を考えて発した言葉だった。
何も言わない時間が続いた時、電話がなった。
「はい、黒です。依頼、ですか。はい。分かりました。はい。では。」
「依頼ですか?」
「うん。」
「あの、私も、連れて行ってくれませんか?」
「え、」
かずとの動きが固まる。
「絶対足は引っ張りません。お願いです。すずさんの言う通り私は本当の殺しを知らない。だから…」
かずとは考え込んだ。
本当に咲を連れて行っていいのか。自分はきちんと咲を守れるのか。
しばらく考え込んで顔を上げた。
「わかった。」
かずとは咲を武器庫に連れて行った。
「銃、撃ったことあるよね?」
「はい。でも、うまく撃てなくて。」
「そっか。何かこの中使えそうなのある?」
部屋を見渡す。
部屋の隅にきららと光るものがあった。
「これにします。」
手に取ったのは、刀だった。
「刀?扱い難しくない?」
「剣道やってたので。大丈夫だと。」
「重さとかは?」
「何回か本物持ったことあるので。」
「分かった。じゃあ行こ。」

二人はすずに言わずに依頼された場所へ向かった。
相手は一人と聞いていて大丈夫だと思った。
「やあやあ。わざわざ来てもらって悪ねえ。」
ニヤニヤしながらこちらを見ている男が5人。
(くそ。騙された。)
黒は心の中で舌打ちをする。
白と依頼をしている時も時々あった。
自分たちが邪魔な奴らが協力をして殺しにくる。二人は返り討ちにしていたが、今は咲もいる。
「あれぇ?女もいんじゃん。話とちげーな。白髪はどこ行った?」
少しずつ近づいてくる男たち。
「咲、下がって。」
小さい声で咲につぶやく。
ゆっくりと後ろに下がる咲。
「ま、いっかぁー二人殺せば出てくるしょ。」
その言葉が合図のように5人一斉に銃をこちらに向ける。
「遊びの時間だぁ!」
黒は咲に銃弾が当たらないように攻撃を止めた。
「え!」
一旦後ろに下がり咲を抱えるとジャンプをして2階に上がる。
「2階のあんまり見つからなそうなとこにいて!」
「でも!」
「待機命令!」
「っ!」
後ろを振り向き隠れられそうなところを探す咲。
(5人相手に咲庇いながら戦うのは無理だ。せめて2人になってから。)
そんなことを考えているうちに、男たちは2階に上がってきた。
「おいおい逃げんなよー。楽しくねーじゃん。…あれ?女は?」
「知らねーよクソども。」
黒の目が鋭く光る。
今この場には、いつもの優しい笑顔のかずとではなく、殺しをやっている黒になったことが咲にも分かった。
「あっはー!空気ピリピリ!いーねーこの感じぃぃ!」
(こいつ、狂ってやがる。)
心の中で思う。
(こいつはすぐには殺せない。なら他の奴らから。)
殺す男を決め、殺す。
二人目を殺し終わった時、
「女みぃーけ!」
「っ!」
黒が振り向くと捕まっている咲と目が合った。
片手を掴まれた状態の咲。
「頭下げろ!青!」
『青薔薇咲です。』
白井すずで白。
黒井かずとで黒。
なら。
青薔薇咲で青。
自分が呼ばれたのが分かったのか頭を下げる青。
頭に向けられていた銃を撃ち落とす。
今だと思ったのか、青が刀を刺そうとする。
「まだだめだ!」
だが遅かった。
刀は取られ、両手が塞がれる。
「青って言うんだねぇーみーんな仲良しで色の名前なんだぁ。」
青から取った刀を取った本人に向ける。
銃を構える黒。
「撃ったら、殺すよ?この女。」
黒が固まった。
「おいおい!俺らのこと忘れてねぇかぁ?!」
まだ殺していなかった二人に同時に襲撃される。
「くっ!」
(押されてる。青が捕まるのは考えてなかった…!こいつら殺してからあいつのとこへ、いや。無理だ。その前に殺される…)
二人の相手をしながら必死に考えるが今の状態を抜け出せる方法は思いつかなかった。
そんな時
「邪魔」
冷たい声が響き渡り、黒と殺し合っていた二人の首が飛んだ。
「っ!」
振り返る。
白の立っている場所だけ空気が違う気がした。
「し、しろ」
「クソバカが。」
そう言って一歩前に踏み出す。
男との距離があったはずなのに、今は目の前にいる。
「あー白髪きたぁー!まってたんだよぉ〜!」
「黙れ」
首が吹っ飛ぶ。
今まで腕を掴まれていた青は解放され、座り込んだ。
肩は震えていた。
「青薔薇咲」
白が咲の名前を呼ぶ。
咲は動かない。
「青薔薇咲。顔を上げろ。」
ゆっくりと顔を上げる咲。目には涙が溜まっていた。
「これが殺しの世界だ。」
「…」
「ここにきたいと言ったのは自分自身だ。」
「…」
「何に泣いている。何がそんなに怖い。」
「こ、怖いんじゃ、ないです。自分が、情けなくて。恥ずかしくて…」
「…」
「白。ごめん。」
白と咲の元に来た黒が謝る。
「今の俺ならいけると思った。5年間殺しをやってきて、大丈夫だと思ってた。俺がおかしかった。ごめん。」
「謝って何になる?これで咲が死んだら、どっちも死んだら、とは考えなかったのか?」
眉を寄せながら静かに聞いてくる。
「謝っても何にもならないことくらいわかってる。だけど言わせてくれ。確かに、咲に何かあったらは考えてた。だけど、その考えも甘かった。」
その時、少し震えのおさまった咲が否定した。
「白さん、黒さんは何も悪くないです。私が連れて行けと言ったんです。私が悪いんです。」
「それでもだ。たとえ、咲から行くと言ったとしても、自分の意思で連れてきたことに変わりはない。咲を置いていくこともできた。それを選ばなかったんだから最初から最後まで責任を持つべきだった。それを出来なかったのがさっきまでの結果だろう。」
二人は黙り込んだ。
白はため息をついて後ろを向いた。
「家、帰るよ。」

家に帰り、3人順番にシャワーを浴びる。
シャワーを浴びた後も3人は無言だった。
やがてあたりが暗くなった。
「あの、私そろそろ帰ろうと思います。殺しのこと、真剣に考えてみます。ありがとうございました。」
頭をぺこりと下げ礼を言う咲。
「今日はごめんね。俺の考えたらずで怖い思いさせちゃって。」
「いえ。気にしないでください。私が行きたいと言ったので。」
「…うん。」
眉を下げ、「またね」と挨拶をする。
「白さん。ありがとうございました。また来ます。」
「うん。ちゃんと休むんだよ。」
「はい。ありがとうございました。」
もう一度頭を下げて咲は帰って行った。
しばらくの間、玄関に立ったままかずとは動けなかった。
いくら騙されたとしても、複数人の殺しの場に連れて行って危ない目に合わせたのは黒だ。そのことがかずとには無視してはいけないことだと思った。
「すず。俺、どうしたらもっと強くなれる…?」
小さな声ですずに問う。
後ろを向いていたすずは少しだけ顔をこちらに向けて言った。
「今の自分に満足しないこと。限界だと思わないこと。人には限界はない。でも、自分が限界だと思ったらそれが限界になる。だから、限界を決めるな。」
そう言って自分の部屋に戻った。
「…限界だと思わないこと、か。」

その夜、すずはいつものように夜ご飯を作っていた。
(少し言いすぎたか?でも危なかったのには変わらないし、最近のかずとは気が緩んできてる。そう考えたらよかったのか?)
手は動かしつつ、静かに考える。