殺しを始めたのは殺したいほど憎い奴がいたから。
そいつは僕をこの世界に連れてきて、僕を育て、暴力を振るってきた男。

すずは目の前の男に戸惑っていた。
依頼で人を殺していたところを見られ、他の人に言われる前に殺そうと思った男。そのはずだった。
「だから!俺も、俺にも教えてくださいよ‼︎人を殺す方法!」
普通の人なら人を殺した奴がいたら逃げるだろう。しかしこの男は違うらしい。
目をキラキラさせながらすずに少しずつ近づいてくる。
「いや、俺にもって。僕、人に殺しを教えた記憶もないし、これから教える気も…」
「そこをなんとか!」
途中で話を切られたすずはどうしていいか分からなかった。
父親を殺すためだけに始まった人殺し。今までもこれからも人に殺し方を教えるということは頭になかった。
「殺しは簡単にできるものじゃない」
「それは分かってるつもりっす」
「面白半分とか、ただ人を殺すのに興味があるってだけだったら絶対に後悔する。」
次々厳しい言葉を発していく。
どれも本当のことだった。
殺しの世界は遊び場じゃない。そういう奴らから死んでいくのをすずは知っている。
そういう世界だった。
「そんなんじゃないです。自分死ぬほど殺したい奴がいるんです。だから。」
ここで男は言葉を切った。
死ぬほど殺したい奴がいる。すずと同じような理由。
すずはため息をついた。こういう男はなにを言っても聞きはしない。自分がそうだ。
「分かったよ。でも、一つ忠告。僕は教えたことはないしそもそも教えるのが苦手だ。人の感情を読み取ることも得意じゃない。辛いとか痛いとかはよく分からない。それでもいいならついてきなよ。」
かずとは最初ポカンとしていたが、言葉の意味を理解したのか顔を輝かせた。
「本当すか⁈マジすか⁈ありがとうございます!全然平気っす!大丈夫す!なのでついて行かせていただきます!」
そう言いながらすずの後について行った。
「あ、そういえばお名前なんて言うんですか?」
「名前。すず」
「すず?何すず?」
「白井、すず」
「白井!俺黒井す!黒井かずと!似てるっすね!」
「そうだね」
「これからよろしくっす!」
「よろ、しく。」


すずとかずとは人気のない森にいた。
汗をたくさん垂らしながらかずとがすずに叫ぶ。
「ちょ、タンマ、タンマ!すずさんタンマ!」
肩を上下に揺らしながら必死にアピールする。
かずとに銃を向けていたすずは首を傾げながら止まる。
「どうしたの?まだ3時間しかやってない。」
「3時間っすよ?休憩なしの!マジ死ぬっす。やりたいことできないで死ぬのは嫌っす‼︎」
首を傾げていたすずはもっと深く首を傾げた。
「まだ3時間じゃん。今日は5時間の予定だったんだけど」
「無理っす。」
すずが眉を寄せる。
「無理じゃない。こんなんじゃ殺しなんかできない。無理でもやる、できなかったら死ぬだけ。」
次々と飛んでくる言葉の矢にかずとは肩を下げた。
「そんなこと言われても、1日目ですずさんと森で殺し合いなんてハードル高すぎないすか?」
「高くない。そっちこそ3時間で無理って馬鹿にしすぎ。」
しばらくの間かずとが疑問を口にしすずが厳しい言葉で答える会話が続いた。
そんな時、すずのケータイがなった。
「はい白。はい。依頼ですか。はい了解しました。はい。お金は、分かりました。はい。では。」
「殺しの依頼ですか?」
「うん」
すずが荷物をまとめ始めたのを見てかずともならってまとめ始める。
「そういえば、白ってなんすか?」
思い出したようにかずとが聞く。
「さすがに本名でやるわけにも行かないから。」
かずとは納得したように頷き、少し考え込むように黙った。すずは不思議そうにかずとを見る。
3秒ほど経ちかずとがハッとしたように顔を上げる。
「黒‼︎」
「?」
突然黙り込み、顔を上げたかと思えば色の名前を叫んだかずとを不審そうにすずは見つめる。
そんなすずの気持ちを理解したのかかずとは説明をした。
「名前っすよ。殺しやる時の名前!白井すずで白。なら黒井かずとで黒っす!」
やっと意味が理解できたのかすずは納得したように頷く。
「でも、コードネーム決めてどうするの?」
そんな質問にキョトンとしたかずと。
「だって今から殺し行くんですよね?そしたら決めといた方がいいのかなって。」
その言葉を聞いてすずは思わず眉をひそめた。
「行くつもりなの?本当に?」
「本当っす!冗談とかでこんなこと言わないっす」
「3時間でダメだったのに?銃も数回打っただけなのに?」
「う、それは…でも、勉強しないと!」
「大丈夫なの?」
かずとは首を傾げる。
「大丈夫なのって、なにがすか?」
少しの間すずが黙り込んだ。
「…いや。なんでもない。守るの嫌なんだけど。」
「自分で頑張るっす!」
「でも…」
「頑張ります!」
かずとの押しに負けすずは諦めた。かずとに押しに負けてばっかだなとすずは密かに思った。
「自分のことは、自分で守ってね。」

白と黒は依頼された場所に行き、相手を待った。
待っている間、黒はずっとソワソワしていた。
「黒、少し落ち着きなよ。」
「そ、そんなこと言ったって初めてだし…」
その時入り口の扉が開いた。
白の目が鋭く光る。
入ってきたのは三十代半ばの男の二人組。
建物の奥へ進み、入り口から遠くなったところで白が鍵をかけ閉じ込める。
鍵を閉めた音で気がついたのか二人が白の方を見る。
「あ?んだこのガキ」
「おいそこのガキ。こん中に男みてねぇか?メガネかけた男。」
指示が出るまで隠れていろと言われた黒は肩を振るわせていた。
力の強そうな大柄の男。殴られたら気を失ってしまいそうなほどの大きく力強そうな手。それらを見ていたら昔を思い出してしまった。
『おい、チビ。俺らの前に立つなよ。』
自分より大きい同級生。クラスの中でも背が小さいほうで小学校から高校まで前の方に並んでいた。
その上暗い性格で力も弱く体力もないためいじめっ子たちは寄ってたかってかずとをいじめた。
見上げるほどの大きな体。大きな手。全てがかずとの昔の記憶を呼び戻す鈴になる。
「そんな男、見てないけど。」
現実に呼び戻す、すずの声。
(こんなところで固まっていても、復讐なんかできない。)
意識を殺しに戻す。
「見てねぇのか。まだきてねぇのかよあいつ。てか、鍵閉めないでくんね?あいつ入れねぇじゃん。」
「そうだね。大変だ。」
黒より白の方が背が高いとはいえ、二人の男はその白よりも大きい。それに白は細い。
でも白はそんなこと気にすることもなく少し煽り気味で話をする。
「大変だ。じゃなくて。それじゃ俺らが困るわけ」
「大変じゃん」
「お前、殺されたいの?」
男が脅して行った言葉で、その場の空気が変わった。
「殺されたいの、だって?君たち自分がネズミってこと分かってる?ネズミは猫にはなれないの。ただ狩られるだけのネズミ。分からない?」
白が笑う。
男たちが怒鳴る。二人が同時に様々なことを言っていてなにを言っているかが分からない。
「うるさいな。ネズミごときがチューチュー鳴くんじゃねぇよ。耳が壊れる。」
白は迷惑そうに顔を歪める。男が怒り狂うのも構わずに。
黒は肩を抱えて震えていた。
男の怒鳴り声。それだけがまた記憶を呼び戻す鈴になる。
(怖い。手足が震えて思うように動かない。)
動いていないのに呼吸が早い。汗が止まらない。
黒が陰で震えている間にも白は相手を煽っていく。
「ねぇ。何回うるさいって言えば分かるの?日本語わかる?分からない?分からないならゴミだけど、大丈夫そ?」
とうとう怒りが頂点に達した一人の男が、近くにあったものを手当たり次第、投げて蹴飛ばす。
その投げたものが、黒の隠れているドラム缶にあたり黒の姿があらわになる。
「あ、あぁ…」
声が出ない。体を動かそうとしても、やはり震えて動かない。
(こういうことだったんだ。白が大丈夫か聞いたのは、こういうことだったんだ。)
今、そのことに気がついても意味はない。
黒の存在に気がついた男の一人が近寄ってくる。
「んだこのガギ。あいつの仲間?」
「そんなわけねえだろ。そんなん、ブルブル震えて邪魔なだけだろ。笑わせんなよ。」
そう言いながら、ニヤニヤしながら近寄ってくる自分より大きな男。
(固まってたらダメだ。何かしないと。でも、体が。)
そんなことを思っている間にも男は近づいてきて、とうとう手を伸ばしたら手が届くところまできた。
「ぼく〜こんなところでどうしたなのかな?」
そう言いながら手を伸ばしてくる。
もう少しで手が届くといったところで銃声がなった。その瞬間あたりに生ぬるい赤い液体が飛び散る。
目の前の男の手がなくなっていた。
「うわぁぁぁ!!!」
「その汚ねぇ手で俺の仲間に触んないでくんない?汚れちゃうだろ。」
男と違い静かに言った白の言葉なのに、なぜかはっきり聞こえた。
「おまえぇぇぇ!!!ゆるさねぇ!ゆるさ…」
そこで言葉が止まった。
男の頭がなかった。
「うるさい。俺の仲間の近くで汚ねぇ声発するんじゃねぇよ。耳が腐っちまう。」
そう言いながら、普段僕と言うすずは、俺と言う白になって、目の前の男を殺した。
何が起きたのか遅れて気がついたもう一人の男は雄叫びをあげながら白に向かって走ってくる。
「テメエエエエ!」
それを簡単に避け、すずは相手を転ばせ上に乗る。
「こんなんで俺らのこと殺そうとしたの?ザゴ。」
鼻で笑う白。
「俺らって、あそこのチビはガクガク震えてなんもしてねぇじゃん。おまけのボロいオモチャだろ?」
汗を流しながらも負けじと鼻で笑い返す男。
かずとは肩をびくつかせた。
(そうだ。今回俺、何もしてない。逃げたい気持ちを必死に堪えて銃を離さないように気を張ってただけ…さっきも足引っ張った。こんな俺、いらねえ…)
「そんなわけねぇだろ。黒がボロいおもちゃ?笑わせんな。やっぱ目腐ってんじゃねぇの?」
迷いのない言葉だった。
その言葉にハッとさせられるかずと。
「実際黒のおかげでお前ら殺せるしな。どー殺そうか迷ってたけど楽に終わってよかったわ。」
「そんなん、たまたまだろ?お仲間大事ですか?優しいですねーあんなクズ早く捨てちま、」
そこで言葉が止まった。
首から上がなかった。
「誰がクズだ?俺の弟子バカにしてんじゃねぇよ。」
死体を見る目は出会ってから今までの中で一番冷たかった。
「黒。」
そう呼んで振り向いた顔は返り血で赤く染まっていた。
「す、すず、さん…」
白はゆっくり近づいてかずとの前にしゃがみ込んだ。
「かずと。僕が怖い?今、目の前で二人の男を殺した僕のこと、どう感じる?」
ゆっくり、でもはっきりと一人の男に向けてすずは聞いた。
「こ、怖く、ない。怖いなんかあるもんか。」
「じゃあ、なんで泣いてるの?」
かずとは俯いた。
「すずは怖くない。でも。あいつらは、怖かった。ごめんなさい。自分で自分のこと守るって言ったのに、何もできなかった。」
涙が滲んだ声。
唇を強く噛んで血が出てきた。
「顔あげて、かずと。」
真っ直ぐと届くすずの声。
殺し合いの中、すずの声だけは現実に戻してくれる唯一の音だった。
「今日、最初の殺しだけは許してあげる。でも、これからは許さない。これからは見捨てる。迷わないで見捨てる。それが嫌ならこの道から抜けるんだ。でも、それでも殺しかしたいなら、強くなりたいなら、明日もあの森で待ってるから。ちゃんと決めるんだよ。」
そう言って後ろを向き、出口へ歩いて行った。
かずとは決められなかった。
強くはなりたい。けど、また今日みたいになったのなら、もう命はない。
すずの足が外の土を踏もうとした時
「白!」
黒が立っていた。
何かを決心した顔だった。
「俺も、一緒に行く。俺は殺しをやる。」
驚いた顔をしていた白だが、次の瞬間には笑っていた。
「そっか。なら付いてきなよ。ついて来れるならね。」
黒も笑い、白の元に走って行く。
そして二人で外の土を踏んだ。



初めての殺しの後、白について行くと宣言した黒は白の家に行き、そこで衣食住をともにすることになった。
一人暮らしだからアパートか、良くて一階建ての家だと思っていたが、二階建ての結構広い家でかずとはびっくりしていた。
『殺しは自分の命もかけるから一回一回の料金が高いんだ。これからの殺しの料金はかずととわけるけど、今回みたいに何もしなかったら、たとえ生きててもゼロだからね。』
“自分の命もかける”
すずは簡単に言ったけど、それは当たり前ではない。
『うん分かってる。』
この道が正しいかどうか聞かれたら、迷ってしまう。
でも、なぜか後悔はなかった。
自分の成長のため、自分を奮い立たせる。
それから仕事の説明をしてもらった。
【殺しは一人の意見では成り立たない。
依頼は一人からできるが、それからは殺して欲しい人の周囲の人間に、アンケートをとる。
殺して欲しいか、殺さないで欲しいか。
殺してほしいと答えた人が10人以上いたら依頼は成立。殺す人間の危険度によって代金は変わる。
殺しをグループでやっているところへの依頼もあるが、その場合受けていいか検討してから殺しに当たる。危ない場合はできないと謝り、殺す場合には連絡をする。全ての判断は自分で行う。】
殺して欲しい人は10人以上で成立。
それはそうか。たとえ、依頼人がその人を憎んでいようとその人が悪いやつかは分からない。
説明を聞いた中で一番驚いたのは“全ての判断は自分で行う”こと。
今までの殺しは白一人でやってきたらしい。
どこかの企業か何かに入っているのかと思ったが、0から10まで一人の力で進めていると言っていた。
『聞いていいか分からないけど、なんで殺しやろうと思ったの?』
気になって聞いてみた。
答えは返ってこないかと思っていたがあっさり返ってきて驚いた。
『殺しを始めたのは殺したいほど憎い奴がいたから。
そいつは僕をこの世界に連れてきて、僕を育て、暴力を振るってきた父親。物心ついた時から暴力を振るってきた。それが普通だと思ってたから友達と初めて遊んだ時に驚いたよ。友達に話したらすごい顔で親のとこ行ったんだもん。戻ってきたと思ったら親も来て詳しく聞かせろって。その後、警察も来て父親も来て、家に帰ったらいつもより殴られるし。その時から怖いって感情も出てきちゃうし。』
そう言って上着を脱いだ。
傷跡だらけだった。首から上はないから一見したら何もないと思うだろうけど、下は傷跡しかなかった。
でも、なぜか左腕の袖は取らなかった。
疑問に思って見ているとその視線に気がついたすずが悲しそうな顔をした。
『ここも、みる、?』
初めてすずの弱いところを見た気がした。
ゆっくりと外される袖。
そこにはまだ新しい傷があった。
『普通じゃないって分かってから、怖いって思いと、ふざけんなって思いが出てきて、どうしようもなくなって。切ってみたら落ち着くから。それからはずっと…』
涙が出てた。
『怖く、ないの?』
目を見開くすず。
『自分より大きい相手に向かっていくって。すずだって、自分より大きい父親に暴力振るわれてたんでしょ。怖いって思わないの?』
少しの間の沈黙。
『…最初は怖かったよ。当然。普通じゃないって分かってから、怖くないって思ってた父親が怖くなった。自分より大きい人を見ると体が震えた。大きな声出されただけで体がビクついた。でも、復讐したいって気持ちもあったから無理矢理沈めて、人を殺してきた。今はそんな怖くない。時々父親の顔を見にもいってるんだ。いざ殺すときに震えないように。まぁ一方的に見てるだけだけど。』
そう言っているすずは、震えていた。
脱いだまま持っていた服を握りしめて、必死に震えを抑えようとしていたが無理だった。
『俺が泣いて何もできなかった時、どう思った?』
苛ついたとか、うざかったとか、そう言う言葉が出てくると思っていた。
自分も怖かったかもしれないのに、無理矢理ついてくるといった男のことを守ることになった。俺だったらキレてるかもしてない。
『守らなきゃなって、思ったよ。』
『え、』
『なんで殺したいって思ったのかの理由は違うけど、痛い目にあったのは同じ。トラウマも抱えてる。僕は全部一人でやってきたから誰かに甘えることができなかった。泣き言を言う暇がなかった。それが苦しかったから、かずとにはそんな思いさせなくないって、思った。』
やっとおさまってきた涙がまた溢れ出した。
(すずの前では、泣いてばっかだな。)
『なんで泣くんだよ。泣き虫だな、かずとは。』
優しく微笑むすず。
それからは、これからの話をしたり、殺しをしていく中で面白かった話をしてもらったり、普通に過ごした。




「ん…」
「あ、おはよう。かずと。」
家に帰って自分の話、これからの話をして眠った。
今は昼間。疲れてたのか、かずとは昼間の一時半に起きた。
「おは、よう。すず。」
まだ寝ぼけているのか、目をパチパチさせながらあたりを見るかずと。
意外と人の目覚めを見るのは面白いのかもしれない。
「すごい寝たね。目が腐っちゃうよ。」
「いま何時?」
「一時半」
「いちじ、はん…一時半⁈」
やっと頭がはっきりしたらしい。
うすくしか開いていなかった目がまんまるに見開かれた。
「なんで起こしてくれなかったの⁈」
「疲れてたかなって思って。何回か声はかけたよ?」
「まじで。」
僕は思わず笑ってしまった。
「なんで笑うのさ。」
「いや、普通に喋ってる方がいいなって。会った時は変な話し方だったから。」
「あーなるほど。周りに下に見られないように陽キャっぽく話してたんだよ。でも、今は意味がないからね。」
少しだけ恥ずかしそうに笑う。
やっぱ、こっちのかずとの方がいいなって静かに思う。
「なんで風呂上がりなの?」
髪の毛が濡れているのに気がついたのか聞いていた。
「依頼終わった後だから。」
「え!依頼してきたの!」
「うん。」
「なんで起こしてくれなかったんだよ。」
少し拗ねたようにそっぽを向いてしまった。
「声はかけたって。依頼行くけど来る?って。それでも起きなかったから。」
「あーごめん。俺のせいだった。」
そう言いながら布団をたたみ着替える。
僕はその間に用意していたご飯を温めた。
「ご飯、食べるでしょ。」
「ありがと!」
やることが終わり、机につくかずと。
僕も向かいに座った。
「まだ食べてなかったの?」
「うん。そろそろ起きるっていうのが分かったから。どうせなら一緒に食べようかなって。嫌だった?」
「いや。そんなことない。てか、そろそろ起きるって分からんだ。」
感心したように頷く。
一緒に手を合わせて食べ始める。
食事の間は何も話さずに食べた。
食事が終わり洗い物も終わったとき、今日はどうしようか考えた。
「今日、どうする?昨日の午前中みたいにやっても、無理ーとか、やだーとか、どうせ言うでしょ。」
「昨日のはレベルが違うから。俺がおかしいみたいに言わないで!」
笑いながら話を進める。
話をして、結果今日は銃をしっかり打てるようになることが第一の目標になり、昨日の森へ向かった。
昨日のうちに、本物の銃と、僕と練習で殺し合うための偽物の銃を渡しておいた。
「あの的に十発中九発当てられたら違う練習にうつるから。」
そう言って二つある的のうち一つの真ん中に十発打ち込む。
黒はなぜか固まった。
「どうしたの?」
「白、さっきまた見てなかったよね?」
「うん。」
「俺も見たらだめ?」
「いや、ちゃんと見なよ。最終目標は見なくても真ん中に当てることだけど、今は当たりもしないと思うよ。打ち方は昨日教えたから大丈夫だよね。」
「う、うん。」
そう言って銃を構えた。
覚えるのは早い方だったと思ったからコツを掴めばすぐ終わると思ったけど、的に当たることすら何回打ってもできなかった。
「下手?」
思わず口に出す。
「下手じゃねぇ!むずいだけ!」
集中していた黒がぐるりと首をこっちに向けて大きな声で反論する。
「でも、僕だって五回目くらいから的に当たってたし、十五回目くらいから真ん中に…」
「白がおかしいだけ!そんな早くできるわけないだろ!」
「僕が、おかしい?僕は普通だよ?黒が下手なだ、」
「それは絶対ない!」
どうしてもできない黒と一緒にどこを狙うのか、コツを何かを確認しながら何回か撃ったら何発かは的に当たるようになった。
1日では目標まで届かなかったから次の日も、その次の日も銃を撃った。
銃を撃つのに飽きたら体力作り。
最初はヒーヒー言いながらやっていた黒だけど、やっていくにつれて体力がついてきたのか余裕でこなすようになった。
         〜〜……〜〜
それから3年後。
「白!依頼!」
「了解。行こ。」
かずとが殺しをやると宣言してから沢山の依頼をやってきた。
最初こそビクビクしていたかずとだか、やるに連れて黒がしっかりしてきた。
「今回5人だって。クズばっかで困るな。」
三年間ずっと一緒だったからか、黒も口が悪くなっていた。
「そいつらを殺すのが俺らの仕事なんだからいいじゃん。お金ももらえるし。」
「もういらねー」
笑いながら準備をする。
その二人の背中はあの頃のように頼りないものではなく、三年間一緒に色々な物を乗り越えた頼れる背中だった。