「いいか?この方角の〇〇キロ先に、クライン公爵家がある。こうやって上を向いたまま、転移しろ。絶対に視線を下げるな」

 よく分からない指示を口にする兄に、私はパチパチと瞬きを繰り返す。

「どうしてですか?」

「上空に転移するためだ」

「えっ?地上じゃないんですか?」

「ああ。キャルキュレイトでは、距離と方角だけを頼りに転移するからどうしてもズレが生じる。それが前後左右であれば問題ないが、上下だった場合……最悪、地中に生き埋めだ」

「!!」

 兄の解説を聞き、驚愕する私は言葉を失った。
ファンタジー小説やゲームでは、当たり前のように地上へ転移していたため、生き埋めの可能性なんて微塵も考えてなかった。
でも、『言われてみれば、確かに』とは思う。

「だから、多少誤差があっても問題ないように上空へ転移してくれ。着地は……」

「俺の方でどうにかする。これでも一応、風属性に適性あるからな」

 『空気の膜でも作って衝撃を吸収する』と述べるリエート卿に、兄は頷いた。
『失敗したら、お前をクッションにするからな』と軽口を叩き、卿の腕を掴む。
いつまで経っても立ち上がらないリエート卿に痺れを切らしたのか、半ば強引に起立させた。
かと思えば、後ろから私の顔を覗き込んでくる。