クスクスと笑みを漏らす私は『はい』と大きく頷き、扉と向き合う。
その瞬間────景色が変わった。
比喩表現でも何でもなく、本当に景色が変わったのだ。まるで、瞬間移動でもしたかのように。
ビックリして辺りを見回すと、ちょうど真後ろに白い扉が。

 ということは、ここって────

「────儀式の間の中だ」

 隣に立つリエート卿は私の予想を裏付けるセリフを吐き、握った手に力を込める。
『安心しろ』とでも言うように。

「指定した者しか入れないよう、ちょっとした仕掛けが施されている。至って普通のことだから、気にすんな……と言っても無理だろうが、まあ慣れてくれ」

 もう一方の手でポリポリと頬を掻き、リエート卿は苦笑した。
『俺も最初はめちゃくちゃ驚いた』と零し、小さく肩を竦める。
『あっ、今の話はニクスに内緒な?』と悪戯っぽく笑う彼に、私は大きく頷いた。

 リエート卿って一見がさつに見えるけど、ちゃんと相手のことを考えてくれているよね。
よく気がつくし、フォローの仕方も凄くスマート。

 『これが真の陽キャか』と感心する中、薄暗い室内の奥へ案内される。
そして何かの祭壇の前まで来ると、リエート卿が手を離した。
無言で騎士の礼を取る彼の前には、司祭服を身に纏うご老人が居る。
恐らく、彼がニコラス大司教だろう。