昼休みの教室。
 本来は平和そのものでなければならないはずのその時間。
 小川有誠を前にして関道永は、オレ、ついに殺されるのかな、と思った。

「お前、またやっただろ」

「し、知らないなぁ」

「とぼけるな。あれだけやめろと言ったのに──」

 殴られる、と思ったが有誠の拳は直前で解け、ビシ、と関を指差した。

「また、ももちゃんに宿題を見せたな?」

「……昨日疲れて寝ちゃったからどうしてもって言われて」関は渋々認めた。「ていうか、お前が見せてあげたらいいんじゃねえの?」

 む、と有誠が口をへの字に曲げて言った。

「駄目だ。自分でやらないと本人のためにならないだろ」

「つか、幼馴染に厳し過ぎねーか? もうちょっと優しくしろよ。好かれるぜその方が。多分絶対」

「嫌われようが構わん。俺はももちゃんの将来の幸福を優先する」

 ただ家が隣だっただけでどうしてこうなってしまったんだろうねと、友人として日々幼馴染に対する執念を間近に見ている関は呆れる。

 そこへ、ふわふわした髪の女の子がてけてけやって来た。渦中のももちゃんだ。ももちゃんキター。と関は思った。

「あっ、関くん、ユーマ知らない?」

「あいつは……うーん、トイレとかかな……」

 いつの間にか、有誠は姿を消していた。原理はよくわからないが有誠はたまに忍者みたいに消えたりする時があった。

「そっか……宿題、教えてもらいたかったんだけど」

「どこがわからないんだ。解き方なら教えてやれる」

「うわ、こわっ」関は思わず言った。

 有誠が普通に席に戻って来たというより椅子からニュルンと生えて来たように見えてキモかったのだ。

「ありがとう、ユーマ」

 ももちゃんは椅子から生えて来たかも知れない気持ち悪い幼馴染に、いつも通りのかわいらしい笑顔を向けた。