すると、部屋の扉がノックされて俐月くんが入ってきた。


ベッドの上にいるわたしは、とっさに入り口のほうに背を向けた。


「羽瑠どうした?」

「なにも、ない……よ」


声が震える。

思ったより声が弱くて、これじゃ泣いてるのが丸わかり。


「……俺に話したくない?」


後ろから優しく抱きしめてくれた。


たぶんわたしが泣いてることに気づいてる。


でも、無理やり聞こうとはせず、ちゃんとわたしの言葉を待ってくれる。


心配そうに気にかけてくれてるのが、すごく伝わる。


でも今は、なぜか俐月くんの優しさに触れると胸がギュッと苦しくなる。


わたしたちは支配者と服従者の関係だけで、そこにお互いを想う特別な気持ちなんて存在しない。


黒光くんに言われたことで、あらためて俐月くんとの関係を考えて自分の気持ちにはっきり気づいた。



俐月くんのこともっと知りたい、独占したい、そばにいたいと思うのは服従者としての本能じゃない。


俐月くんだからって、そこにちゃんとしたわたしの気持ちがある。


今はっきりしてるのは、わたしたちは恋人同士でもないってこと。


そして、わたしは……俐月くんのことが好きなんだ。