あなたを抱きしめる、唯一の


 試食用の栗饅頭は、透明なケースに写真を貼って目立つように置いてある。笹栗デパートにおけるつるばみ屋のイチオシなのだ。

 彼は一口大に切られた栗饅頭を頬張り、無言のまま贈答用のパンフレットめくっている。行動が読めなくて、冷やかしじゃないかとエプロン裾を少しだけ握った。


「これって美味しいの?」

「え……」


 試食を終えた彼は、すらっとした指を桜御前に向けた。ここまでストレートに聞いてくるお客様は初めてで、私は言葉に詰まってしまう。


「美味しいものを食べさせたいんだよ」


 私の戸惑いにも構わず、彼はたたみかけてきた。私は小さく深呼吸して、視線をしっかりと彼に、お客様に合わせる。


「美味しいかどうかは、人によります」


 彼の目が、わずかに見開かれた。

 それはそうだろう。販売員ならきっと、商品をこれでもかと褒めちぎって買わせようとする。そしてそれが正しい姿だ。

 でも私は、お客様に誠実でありたい。