あなたを抱きしめる、唯一の


「……それなら、お母さんだってもう自由になっていい」

「だからね、私は──」


 玄関の引き戸が激しく叩かれる音に、私と母は肩を跳ねさせた。

 磨りガラス越しに、大きめの影が透けて見えた。

 私は土間に下りて、近くにあった傘をつかんだ。母もナタを左手に、引き戸にそろそろと手をかける。


「あのっ、すいませ……!」

「笹山さん!?」


 引き戸を勢いよく開けてそれぞれの武器を構えたら、見知った顔がドン引きして後退りした。


「あ、どうも……怪しい者ではないんです……」


 彼は引き吊り笑いを浮かべ、腰が引けた状態で弁解を始めた。母は警戒した顔を崩さず、それでもナタを横に置いた。


「お母さん、こちら、笹栗泰明さん……笹栗社長の息子さん」

「え、あなた今笹山って」


 ああそうだ、全然そこは話してないんだった。もう一から説明しなくちゃ、面倒なことになってしまった。

 そう思いながらも、二人を中へと促した。