あなたを抱きしめる、唯一の



「お帰り」


 家までたどり着きやっと解放されたかと思えば、母は蔵の掃除をしているところだった。


「お母さん、あの」

「中で待ってなさい、鍵は開いてるから」


 十数年ぶりに会った娘だというのに、顔もろくに見ない。葬式にも出なかったことで相当頭に来ているんだろう。

 この前電話に出てくれたのが奇跡のようだ。

 記憶よりもボロボロになった玄関に入り、土間で靴を脱いで上がる。懐かしい匂い。

 どれだけ嫌おうとも、結局のところ私はここで育ったのだと思い知らされる。


「それで、聞きたいことって何なの?」


 後ろから声がして、振り返った。ヨレヨレのトレーナー、古めかしいズボン、雑にくくった髪。シワやシミは増えたように思う。

 罪悪感を振り払うように、私は意識して強めの口調で言った。


「お母さん、まだ笹栗さんのことは好き?」


 母の呆気にとられた表情に、私は言葉を続ける。